四月歌舞伎座 夜の部

kenboutei2009-04-12

『毛谷村』吉右衛門の六助、福助のお園。(最近は、このコンビが多いなあ。)
吉右衛門の六助は、ソツはないものの、それほど面白いとも思わなかった。ただ、微塵弾正に騙されたと知ってからの、怒りに溢れた一連の芝居は、声の張り上げといい、身体の動きといい、さすがに吉右衛門らしい、大きさであった。
福助のお園は、自分は初めて。花道の出は、何の工夫もなく、普通に歩いていた。舞台袖で尺八を吹く時、肩を必要以上に揺らし過ぎる。虚無僧の女武道より、六助が許嫁とわかり、女性っぽくなる方に、福助らしさがある。お園の述懐で、からみを使うのは、成駒屋の型だそうだが、なかなか面白い。からみが大袈裟に吹っ飛んだりするのだが、もう少し大らかな動きであった方が良かった。
吉之丞のお幸は持ち役、歌昇の弾正は、凄みが足りない。東蔵の斧右衛門はご苦労。
『吉田屋』仁左衛門の伊左衛門、玉三郎の夕霧。これまで観てきた中では、仁左衛門襲名時以来の面白さ。いや、それ以上だったかもしれない。仁左衛門は、編笠を被っての花道や暖簾口はそれほどでもなかったが、奥座敷に入ってからは、その愛嬌と色気でたっぷり魅了させてくれた。特に、夕霧を覗きに襖を開けていく時の、足の運びは見事であった。襲名時とは違って、黒衣の足踏みはない演出であったが、松嶋屋型の楽しさは、存分に味わえた。
そして、やはり玉三郎の夕霧は、絶品。美しい。最初の出で、炬燵でふて寝している伊左衛門の隣で、背中を見せて決める形の良さといったらない。髪飾りが舞台照明でキラキラと眩しいくらいに煌めくのも、実に印象的。
喜左衛門の我當、おきさの秀太郎夫婦がまた素敵。松嶋屋三兄弟が揃うだけで、嬉しくなってしまう。勘当が赦され、ハッピーエンドで終わる時、二人が手を叩いて喜んでいたのが、あまり過去の舞台ではそういう場面の記憶が残っていないだけに、何だか感動的であった。
由次郎の大尽、巳之助の太鼓持。
曽根崎心中藤十郎のお初、翫雀の徳兵衛。三年前の襲名時の印象と殆ど変わらない。その、変わらない藤十郎の印象に、むしろ驚く。道行の時の藤十郎の歩みは、年寄りが頑張って歩いているというものでは決してなく、ごく自然な女形の歩みであり、何だか信じられない若さである。