『春琴物語』

kenboutei2009-03-24

21日の神保町シアター、3本目。伊藤大輔監督の『春琴物語』。『女系家族』『女の勲章』と同じ大映映画で、主演も京マチ子。ただ、昭和29年の作品で、フィルムの状態が悪い。ノイズがうるさいのはまだ我慢できたが、画面全体が暗くはっきり見えないのは致命的。正直、あまり楽しめなかった。
春琴に京マチ子、佐助に花柳喜章。
同じく大映映画で京マチ子主演の『痴人の愛』や、成瀬監督の『お国と五平』にも言えることであるが、谷崎文学の最大の特徴でもある、男女の主従関係に焦点を当てたエロチシズムやサディズムが、決定的に足りない。映画化の限界かもしれない。(『細雪』市川崑監督が撮っていたら、面白かったかも。)
春琴に横恋慕する利太郎に船越英二。わがままなボンボンの感じが良く出ていた。名取争いで春琴に破れ、恨みを持つ女に杉村春子。(この役は原作にあったかな?)
春琴に熱湯をかける実行者(?)の高品格が、さすがの迫力。
それとすぐわかる伊福部昭の旋律が、映画の格調を高めるのに役立っていた。
愛する盲目の女が醜くなったのを見ないように、自らも失明し、お互いに盲目の世界で生きるという物語は、少しシチュエーションは違うが、レイ・ブラッドベリの短編で、出産した子供が異次元に入り込んでしまい、その子を抱きしめるために、夫婦で同じ異次元に入ってそこで暮らすというストーリーに似ていると、映画を観ながら思い出していた。(あれは何て言うタイトルだったかなあ。)