『歌行燈』

kenboutei2008-12-11

神保町シアター山田五十鈴特集、3回目。
今日は、『歌行燈』。『芝居道』『鶴八鶴次郎』と同じ成瀬巳喜男監督の芸道ものだが、山田五十鈴の相手は長谷川一夫ではなく、花柳章太郎。役者を新派中心で固めた、昭和18年の作品。
能楽師の御曹司(花柳)が、地方でちょっと有名な按摩の謡を裂帛の拍子で打ち負かし、自殺に追いやってしまったことで破門され、門付けで糊口を凌いでいる時に、死んだ按摩の娘(山田)が芸者になったのに芸ができないので、七日間で仕舞を授ける。その後、娘が呼ばれた座敷が、偶然にも御曹司を破門した能楽師一行で、その前で仕舞を披露し、それが御曹司の伝授であることがわかり、やがて破門も許され、めでたしめでたし。
都合の良い予定調和な出来事も、それが泉鏡花の戯曲を元にしているのだから、しょうがない。むしろ、その予定調和が気持ち良いのだし。
松林の中での能の伝授場面は、確かに歴史に残る名シーンであった。
一番印象が強かったのは、花柳章太郎の門付けの相方、次郎蔵役の柳永二郎。キップのいい、江戸前の話しっぷりが、いかにも新派という感じ。『雪夫人絵図』では、単にイヤらしい親父にしか見えなかったのだが、この映画ではまだ若く痩せていて、格好良い。
自殺に追い込まれる按摩の宋山役の村田正雄が、なかなかの怪優ぶり。溝口映画で観たような記憶があるのだが、思い出せない。
花柳だけでなく、大矢市次郎伊志井寛という新派の名優の演技をたっぷり楽しめるのも、ちょっと得した気分。
・・・山田五十鈴の特集なのに、殆ど彼女に触れていないなあ。