十一月平成中村座『法界坊』

kenboutei2008-11-24

八年振りの浅草での『法界坊』。その初演時はもちろん、歌舞伎座での再演も観ていたので、改めて行かなくても良かったのかもしれないが、チケット発売と同時に、反射的にパソコンの前でクリックしていたのだった。
非常に良かったのは、大喜利『双面』での、勘三郎のスッポンからの出。野分姫姿の勘三郎の、独特の美しさ。今日は、花道外のドブ側から観ていたのだが、そこから見える勘三郎の斜め右側半身の姿が、古風な面影に柔らかな色気が漂っていて、惚れ惚れとしてしまった。
ちょうど今月の歌舞伎座で三代目時蔵追善をやっており、二階にスチール写真の展示があった。その中の一部の写真(例えば重の井や桜丸など)は、今の勘三郎にとても良く似ていると思っていたのだが、今日のこのスッポンでの姿で、改めてそのことを確認した。(まあ、血がつながっているので、当たり前といえば当たり前だが。)
最初は赤姫的な格好で、一瞬の暗転で、黒の着付けに変身したのも見事。
そして、勘三郎の踊りは、平成中村座の空間に、実に良く似合うと思った。そういう意味では、この小屋で、是非中村屋の『道成寺』を観てみたい。(間違っても『鏡獅子』ではない。)
野分姫の声だけに、黒衣姿の七之助渡辺えり子『舌切雀』での福助にも感じたことだが、白ぬりの黒衣は、妙に色っぽくて好きだ。
舞台袖の羅漢台に、今回は本当の観客を入れていた。(カーテンコールの時、勘三郎がその中の一人を紹介していた。両袖合わせて八人程度のこの座席は、パンフレットの座席表にも表示がなかったので、おそらくは幕内での招待客なのだろう。)
観客の一人に、永作博美がいて、勘三郎が通り際に、「(永作の)舞台観に行けなくてゴメン」と謝っていたり、荵売りの役者がお地蔵に見立て、お供えをしたり、結構いじられていた。
終わるとスタンディング・オベーションに、「ブラボー!」の掛け声。受ける役者も贈る観客も、何だかそれに慣れてしまっているような、予定調和の舞台空間。