十月歌舞伎座・夜の部

kenboutei2008-10-18

『本朝廿四孝』「十種香」は、玉三郎の八重垣姫、福助の濡衣に、菊之助の勝頼。この四月にも観ているので、またか、という感じ。文楽でもこの前観たばかり。眠くなるのも当然だ。(←言い訳)
玉三郎福助菊之助と、各世代の美貌の女形が一同に揃うというのは、夢のような話で、かなり期待していたのだが、このトリオでこの狂言は、どうも合わなかった感じがする。
三人とも、どちらかというと、洗練された現代的な女形であり、義太夫狂言に向くような、こってり感や古典味には乏しいので、どこかさらさらした印象を持ってしまった。誰か一人だけがこの狂言に出ていて、相手が他の役者であれば、そういう受けとめにはならなかったのだろうが、三人が揃うことで、そう感じたのだと思う。唐突な喩えだが、ちょうど、外国人力士が台頭・定着した頃の、曙対武蔵丸戦を観た時の、何とも言えない違和感に、似ていた。床の竹本(特に三味線)が非常に貧相だった点も原因かもしれないが。
菊之助の勝頼は、『十二夜』の獅子丸のような、メルヘンチックな勝頼。それと、髷の切り口が、前回の橋之助同様、真ん丸だった。(変なところに拘るようだが、前はそんな鬘じゃなかったような気がするので・・・)
菊之助は、勝頼より八重垣姫を早く観たい。
次の「狐火」になると、玉三郎の一人舞台なので、心置きなく、楽しめた。吹輪の赤姫の美しさは、今でも玉三郎が一番であろう。鬘付け際のアウトラインによる顔の輪郭や、化粧を含め、完璧な美である。そして、顔と身体のバランスも良いし、動きも流麗。何も考えずに、見とれていた。
『直侍』菊五郎の直侍、菊之助の三千歳。初めて観る菊之助の三千歳が、非常に良かった。実はあまり期待していなかったので、驚いた。(菊之助贔屓なのにね、自分。)
最初の出と、第一声の「直さん」はちょっと張り過ぎて良くなかったが、その後の菊五郎との所作は、常に直侍を愛おしむような、可憐で儚い、菊之助女形としての魅力が横溢していた。特に横顔は、梅幸の孫でありながら歌右衛門を彷彿とさせるのが、不思議な魅力であった。歌右衛門梅幸を足して2で割って、うんと若くした女形が、菊之助なのだ。(やっぱり贔屓だな、自分。)
菊五郎の直侍も良かった。特に「寮」に入ってからは、息子・菊之助を恋人にして、自らも若返った感じ。最近は、どうもくたびれ感が漂っていたのだが、今日の菊五郎は、キリリとして格好良かった。
田之助の丈賀は、すっかり定着(チラシに写真まで載っている)してしまった感があるが、それでいいのでしょうか。
『英執着獅子』福助。面白かった。懐紙で顔を隠して登場し、それをぱっと外して見せた時の表情は、一瞬ニヤリとして、いつもの福助の顔の演技が始まったかと思ったのだが、悪いのはそこだけで、後は、しっかりとした踊りを見せてくれた。安定した下半身に、柔軟な上半身。手振り、身振りの面白さも堪能。何より、形が美しい。これまではあまり意識していなかったのだが、福助の踊りのうまさを、認識した舞台であった。
 
・・・というわけで、夜の部は、三人の旬の女形を楽しむ興行かなあ。(それにしても、空席が目立った。)