平成中村座『忠臣蔵』Cプロ・Dプロ

kenboutei2008-10-13

Cプロは、大序、二段目、三段目、八段目、九段目という構成で、勘三郎初役の戸無瀬が眼目。34年振りという、二段目も話題。
仁左衛門は本蔵。橋之助は若狭之助と九段目の由良助、孝太郎は顔世と九段目のお石。勘太郎の判官、弥十郎の師直。小浪は七之助。力弥は二段目を新悟、九段目を勘太郎で分ける。
勘三郎の戸無瀬は、意外なことに八段目の道行が一番良かった。九段目は、それほどでもなく、おそらく戸無瀬はこの人のニンではないのだと思う。二段目は、力弥の口上を小浪に受けさせようと、仮病を使うところが、戸無瀬としての一番の見どころだろうが、さらりと流れてしまった。
一方の仁左衛門は、二段目から立派。松の枝を切って刀身を鞘に収める所作といい、馬に乗って師直の館に向かう花道の姿といい、これは歌舞伎座でももう一度観たいものだ。
三段目で続けて出てくるのは、普通の上演ではあり得ないので、とても得した気分。
九段目は、これは本役。三宝を踏みつぶす時の形が大きくて良い。力弥に討たれるところは、自分で相手の槍を持って腹に導くのではなく、力弥が刺しやすいようにそれとなく隙を見せるというやり方。この方が小芝居にならずにすむので、好感が持てる。
孝太郎のお石は、なかなか良かった。勘三郎に臆することなく、毅然としていたのが良い。キンキンと甲高くなりがちな声も、この役では終始抑え気味であったので、全く気にならなかった。
弥十郎の師直は、強面振りはいいけれど、お石をくどくところや、判官をからかうところは、もっと砕けた愛嬌がほしい。
勘太郎の判官は、型を気にしすぎてのぎこちなさがあるが、今は仕方がないだろう。九段目の力弥の方は、相応の出来。どうせなら二段目もやった方が一貫性があったのだが。
新悟は、大序の直義が良かった。いつも締まりのない顔だなあと思っていたのだが、直義として見ると、どこか高貴な、茫洋とした顔に見えた。(褒めてないか?)
二段目を入れたせいか、大序は、判官の戻りと「早ぇーわ」はカット、道行も「紫色雁高・・・」の部分は省略していたような気がする。
(それにしても、忠臣蔵で4つも公演するのなら、どこかで十段目も入れてほしかったなあ。)
 
Dプロは、若手の奮闘公演の装いだが、これが一番、「平成中村座」という小屋に相応しい、熱い舞台であった。
五段目、六段目、七段目と、Bプロから討入りを除いた演目立て。勘太郎の勘平と平右衛門、七之助のおかる、弥十郎の定九郎、橋之助の由良助。勘太郎が源六、仁左衛門不破数右衛門で付き合う。
五段目では、弥十郎の定九郎が、案外に良かった。すっきりした色悪の魅力とは異なる、古風な味わいがあった。中村仲蔵によって洗練される前の、原作の山賊風佇まいが内包されていたような気がする。
そして六段目。自分の中では今回の中村座で一番の舞台成果。といっても、これは勘三郎仁左衛門の力によるところが大きいのだが、この二人が脇にまわることで、六段目がようやく芝居らしくなったということである。
Bプロの六段目は、勘三郎一人の無人舞台であり、他の役者が面白くないので、芝居としてはどんなに勘三郎が奮闘しても盛り上がらずに終わってしまった。
しかし、このDプロでは、勘三郎仁左衛門の他に、孝太郎がお才、歌女之丞がおかやと、それぞれ安定感ある演技で、主役の勘太郎を盛り上げる。歌舞伎は、特にこうした世話場は、脇がしっかりしなくては面白くないということを、BプロとDプロを見比べることで、実感した次第。
勘太郎の勘平は、もちろん芸の上ではまだまだ未熟だが、実に熱い勘平。その若さと情熱が身体全体から放射され、観ている方も引きずりこまれる。
七之助のおかるも、勘太郎同様の熱演。この若く未熟なカップルを、ベテラン俳優陣が支えるという構図が、非常に爽やかでもあった。
特に、仁左衛門の数右衛門は、どっちが主役なんだと思えるほど(まあ当然といえば当然だが)、貫禄充分の素晴らしさ。理路整然と勘平に詰め寄り、これでは勘平も腹を切らざるを得ないというところまで追いつめられるのが納得できる。
それにしても、仁左衛門勘三郎が脇にまわれば、それはご馳走に決まっているのだが、換言すると、今の脇役の層の薄さを浮き彫りにしているものでもある。昔だったら、今日の仁左や勘三くらいの芝居のできる脇の役者が、たくさんいたのだという話が、年配の歌舞伎ファンから聞こえてきそうである。
七段目は、そういう上置きの役者はいないが、橋之助勘太郎七之助のバランス良く、まずまずの出来。勘太郎七之助はさすがに兄弟だけあって、平右衛門とおかるの役はぴったりはまる。
橋之助の由良助は、悪くはないが、どこか優等生的な芝居で面白味はない。
七之助は二階から手鏡で覗く姿勢が、かなり仰け反り過ぎで、形が良くなかった。