十月歌舞伎座・昼の部

kenboutei2008-10-12

全体に、成果の乏しい舞台に思えたのは、決して空席の目立つ入りのせいだけではないはず。
『重の井』福助の重の井。最近も観て食傷しているせいか、気がついたら寝ていた。頑張って起きていようという気にもならず、そのまま終わる。最後の「お発ち」の台詞は、相変わらず悲哀感たっぷり。小吉は先々月に引き続き達者な演技。
『奴道成寺松緑。「白拍子の時は、男が女に扮しているのだから、ぎこちなく、ロボットのような動きで舞うように」という口伝があれば、信じてしまいそうな、前半の白拍子だった。
狂言師になってからは少し持ち直すが、面を使っての男と女の使い分けは、相変わらず下手。身体の動きで男女の変身を表現できないようでは、観ていて全く楽しめない。
最後に面をとって、きりっとした松緑の顔を見せた時は、少し溜飲が下がるのだが、踊りで魅了するには、まだ道のりは遠いようだ。
会場が一番盛り上がったのは、花道での花四天の「とう」尽くしだった・・・。
『魚屋宗五郎』菊五郎の宗五郎、玉三郎のおはま。菊五郎劇団の中での玉三郎がどうなるかと期待していたのだが、結果は期待外れ。全体に、生体反応の鈍い芝居であった。
玉三郎は、黙阿弥の七五調をあえて無視して、独自の世話女房像を作ろうとするため(これは玉三郎勘三郎が陥っている、誤ったリアリズム、現代俳優でもある歌舞伎役者を意識し過ぎたコンプレックスなのだと思う)、菊五郎劇団とのアンサンブルが完全に壊れていた。こんなに低調な、暗い気分の「魚屋宗五郎」は初めてである。
玉三郎に引きずられ、菊五郎もつまらない。唯一、良かったのは、酔いが回り、目が据わって「妹を何故殺した」と言う場面。完全に自分一人の世界に入り、宗五郎の怒りが見事に表現されていた。
『藤娘』芝翫。80歳の傘寿を祝って。この年齢でこれだけ動くのは凄いと思うのだが、何故か雀右衛門が同じような年齢で舞台に立った時の感銘は沸き上がってこないのが不思議。
全体に淡白な舞台空間。時間も短く、藤音頭はやっていたっけ?という感じだった。