『東京の宿』

kenboutei2008-01-12

最近全然映画を観ていないのは、年末年始の特番録画の消化や、歌舞伎だけでなく、Wii fitにも時間がとられている・・・というのは単なる言い訳、やっぱりちゃんと観ないとなあ。
年の初めは恒例の小津安二郎。今年は、初見の『東京の宿』。
坂本武主演の、いわゆる喜八もの。昭和10年作、サイレント(サウンド版)。
小津の戦前人情喜劇作品の中では、かなり好きな部類に入る。
職にありつけず、東京の街中を徘徊し、夜は木賃宿に何とか寝床を確保する、その日暮らしの父親と子供二人の日常を描く前半は、イタリア映画のネオリアリズモも軽く凌駕するほど、強烈な印象を残す。
あまりの空腹に、食べ物を夢想し、親子で晩酌の真似をしてみせるところが、一番好きだ。
父親(坂本武)が職探しに失敗する度に、息子(突貫小僧)が慰める台詞や、野良犬を捕まえるともらえる40銭の使い道を巡り、繰り返し出てくる「犬はめしじゃないか」という台詞など、貧困の中でもほのぼのとしたおかしみが滲みでる。脚本の勝利だろう。
同じように職探しをしている母子の母親役が岡田嘉子。三十路を過ぎた、やや疲れ気味の色っぽさが魅力的。『東京の女』も良かったが、それ以上であった。(彼女はこの作品の2年後に、ソ連に亡命するのだなあ・・・)
映像的には、歩いている人物を背後から同距離で移動撮影するショットや、二人でしゃがみ、振り向いて話すショットなど、その後の小津映画でさんざん指摘されている小津的アングルは、この時点ですでに完成の域に達している。
飯田蝶子の「おかあやん」、笠置衆の警官(観ていた時は気づかなかった)など、小津組常連による安定感も強い。
突貫小僧の弟(末松孝行)は子供ながらクールな佇まいが面白く、岡田嘉子の娘(小嶋和子)も、べーっと舌を出す仕種が可愛かった。

小津安二郎 DVD-BOX 第三集

小津安二郎 DVD-BOX 第三集