『女優須磨子の戀』

kenboutei2007-09-12

昨日に引き続き、池袋の新文芸座
観る前は、何故か自分の中で、女性の自立をテーマにした硬い映画というイメージがあったのだが、これは、『残菊物語』と同じ、芸道物であった。
日本の近代演劇草創期の島村抱月松井須磨子の恋と新劇運動を描く。
須磨子に田中絹代、抱月は山村聰坪内逍遥東野英治郎(写真で見る逍遥にそっくり)の他、小沢栄太郎東山千栄子千田是也など、新劇界の重鎮がずらりと並ぶ。
歌舞伎との関連で、この時代の新劇運動についても少しは知るようになっていたので、逍遥邸に集まって「人形の家」の上演を決める件や、沢田正二郎が芸術座を脱退する場面などは、興味深かった。
田中絹代は、須磨子というより、やっぱり田中絹代。その台詞廻しといい、ちょっとぎくしゃくした動作といい、また、須磨子の持つ気性そのものも、全て田中絹代のイメージに繋がってしまった。
須磨子と不倫関係に陥った島村抱月は入り婿で、妻との関係は冷えきっている。抱月の山村聰が帰宅し、妻役の毛利菊江と廊下で話した後、そのまま長廻しでカメラが隣接する部屋に移ると、そこに義母の東山千栄子が火鉢の前にどっかと座り、煙管を燻らせながら、山村聰に意見を言い、いつの間にか妻も同席している場面は、絶対に婿養子になってはいけないと決意させる程、怖い場面であった。
ところどころ、無理矢理盛り上がる音楽が、耳にうるさかった。
冒頭、抱月の講義を一番前で熱心に聞き、途中で拍手をする学生は、『地獄』で怪演していた沼田曜一のようであった。(この時は、素直な学生だったのだなあ。)
この時期、同じ須磨子をテーマに、『女優』という映画が衣笠貞之助監督、山田五十鈴主演(!)で作られたそうだが、山田五十鈴の須磨子は、どんなものだったのだろうか。(正直、こっちの方が観たかったなあ。)
帰宅してから、古本屋で手に入れた『昭和舞台俳優史 松井須磨子から坂東玉三郎まで』を、改めて眺めてみる。(何故か2冊持っている)