『マリヤのお雪』

kenboutei2007-09-11

池袋の新文芸座。昨年のフィルムセンターでの溝口特集で見逃していた、未DVD化の溝口映画の一本。
モーパッサンの「脂肪の塊」(何というタイトルだ)を翻案化したのは前半部分で、ジョン・フォードの『駅馬車』同様、馬車の中の人間模様と、銃撃戦が中心。西南戦争を舞台としているのが面白い。(西郷どんは出てこないが)
冒頭、いきなり爆発シーンから始まり、逃げる西郷側の兵士を官軍が追いつめる場面では、林の中の斜面から銃撃するというユニークな構図もあった。
戦火から逃れる酌婦の一人が山田五十鈴。途中、官軍に捕らえられ、そこのリーダー夏川大二郎と恋に陥るのが後半の物語だが、台詞廻しが途端に芝居口調となり、川口松太郎色が鮮明となる。
敵対していた山田と夏川が一瞬で深い仲になるのだが、そこはフィルムが欠けているのかそういう演出なのか、今ひとつチグハグな流れであった。
夏川大二郎の官軍リーダーは、片側の前髪をたらし、キザな台詞廻し。まるで花形満のようだった。
山田五十鈴の酌婦は、すっきりとした美しさがあったが、まだその翌年に作られる『浪華悲歌』や『祇園の姉妹』のような妖しい魅力はなかった。川口松太郎のベタなタンカもぎこちない。
梅村蓉子が、酌婦達を見下す中年女で、バイプレーヤーぶりを見せる。
アヴェ・マリア」が流れる中、傷ついた夏川を船に乗せて逃がす山田五十鈴。その後ろ姿とおぼろ月夜、川面の煌めきが美しいラスト・シーンであった。

・・・何年か振りの池袋。相変わらず猥雑な雰囲気。新しくなった文芸座には初めて入る。意外とスクリーンが大きくて、見やすかった。最後の一本は800円になるのも良い。オールナイトの番組を観るとかなり魅力的なのだが、もうそんな体力はないからなあ。とりあえず、明日も未見の溝口なので、今日と同様、会社帰りに寄ることにしよう。