團菊祭・昼夜

kenboutei2007-05-05

直前までてっきり新橋演舞場の方を通しで観るものだと思っていたのだが、チケットを確認すると、歌舞伎座の通しであった。危ない危ない。
昼の部
『泥棒と若殿』先日亡くなった源左衛門が、歌舞伎チャンネルの「芸に生きる」で、この芝居の泥棒役を勤めたことを嬉しそうに語っていたが、その時以来の上演のようだ。なるほど、これが源左衛門の泥棒だったらさぞ面白かっただろうと思う。こういう芝居は何と言っても間が大事だが、松緑はまだその間の息がつかめていないようだった。商業演劇の役者なんかはうまいだろうな。ドリフの加藤茶志村けんがやっても、うまい演技ができそうな気がする。若殿は三津五郎。こちらは文句なし。
勧進帳筋書を読むと、「天覧歌舞伎120年」を記念した上演とのこと。実際にこの四月末には井上馨邸のあった国際文化会館で、天覧の『勧進帳』を上演したのだという。明治の天覧での弁慶は、もちろん九代目で、それを記念した上演と謳っているからには、最近の七代目幸四郎によって変容していった型ではなく、九代目の本来の型で演じられるのかと、一瞬期待したのだが、團十郎がいつもの衣装で登場してきて、普通に終わってしまった。
ちょうど、今月の歌舞伎チャンネルの「芸に生きる」(さっきも書いたな)で、羽左衛門芸談が放送されているのだが、その中で、九代目の型の違いを語ってくれている。例えば、義経を打擲しつつ、富樫とやりとりする場面での、金剛杖の振り上げる位置は頭上より高くしないとか、二人の番卒との酒のやりとりで、花道の方に指を向ける時でも、目は富樫の方を向いているとか、そういう型(というか、心の持ち方)は、今日の舞台では、全く再現されていなかった。
筋書で紹介している錦絵を観てもわかる通り、天覧時の弁慶の衣装も今のものとは違っている。全くいつもと同じ勧進帳を見せるのなら、何のために「天覧120年」を記念しているのだろうか。
さて、團十郎の弁慶であるが、今年1月の松竹座をテレビで観た時は、あまりにもひどい出来で愕然としてしまい、この前のオペラ座のテレビ中継も、それほど良くなくて心配していたのだが、思ったよりはまともでひと安心。しかし、面白いというところまではいかず、何となく無難に勤めているという感じ。
むしろ久しぶりに観た菊五郎の富樫が大変立派で良かった。團十郎と並んだ時のバランスの良さもあって、最近の富樫の中では富十郎以来の上出来。
梅玉義経は、花道の出が良かった。「判官御手」は、もう少しゆったり感があっても良かったと思う。
『与話情浮名横櫛』伝説となりつつある(?)三越劇場のは観ていないので、海老蔵の与三郎は今回が初見。相手は菊之助海老蔵、相変わらず台詞廻しが不思議系であるが、「見染」での菊之助とのツー・ショットにはうっとりさせられた。ただ、菊之助の方も、まだ年増の色気が出るには無理があるが。二人とも、花道の出があまり良くないのは、多分若さ故だろう。
「源氏店」での海老蔵の「ご新造さんえ」の台詞が、時々見せる投げ捨て調でまずい。ここでは蝙蝠安の十蔵が、いやらしさと滑稽さがうまく調和していて、見事であった。真の持ち役となったのではないだろうか。
『女伊達』芝翫。ほとんど寝ていた。

夜の部 
『女暫』羽左衛門の七回忌ということで、次男萬次郎による『女暫』。ちょっと意外な企画という気もしたが、なかなかどうして、大変面白かった。いつもはキンキンして鼻につき、周囲から浮いてしまう程、女方としては無駄に豊かな声量と声の艶が、この「女方の荒事」にはぴったり嵌った。特にツラネは手強くて見応えがあり、立派。かつての宗十郎の舞台を思い出した。花道でプイと横を向く仕種などはぎこちなく、愛嬌に欠けるきらいはあったものの、萬次郎としては、一世一代の大舞台だったのではないだろうか。去年観た『嫗山姥』の白菊なんかも良かったし、例えば、『毛谷村』のお園のような、女武道ものを、萬次郎で観たくなった。
もう一つ、この『女暫』で特筆すべきは、海老蔵の成田五郎。『暫』では鎌倉権五郎を勤める成田屋の御曹司が、腹出しを演じるのにも驚いたが、これが凄い迫力。やっぱり海老蔵は、荒事役者である。こんな怖い成田五郎は初めてだった。いつもは単に滑稽なだけに過ぎない赤っ面の中ウケが、海老蔵によって、その本来のあるべき姿に戻されたようにも思えた。
彦三郎のウケの藍隈も立派であった。
『雨の五郎』『三ツ面子守』五郎は松緑。白の衣装が新鮮。子守りは三津五郎。とても可愛い。お面をかぶらなくても、素で楽しい踊り。
『め組の喧嘩』筋書の役者のコメントを読むと、特に鳶職人などはあこがれの役だそうで、演じるのも楽しそうなことが書かれているが、観ている方は、初見ならともかく、そう何度も相撲取りと鳶職のけんかを楽しめるものではない。『忠臣蔵』の討ち入りと同じである。見どころは、「辰五郎内」だけだが、お仲の時蔵が良く、菊五郎の辰五郎と合わせて、前に三津五郎襲名時に観た時より面白かった。
海老蔵の九竜山、白塗りの顔と肉襦袢の不釣り合いさが、出来の悪いアイコラ写真のようだった。