マーティ・グロス『冥途の飛脚』

kenboutei2007-05-04

午前中にプールで泳いだ後、和楽舍という、住大夫のCD販売のために、素人のおばさん(らしい)が作った法人が企画した、映画上映会に行く。
元々は、昨年亡くなった吉田玉男を偲ぶ企画として、この3月に、弟子の玉女を招いたトークと一緒に学士会館で上映する筈だったのだが、文楽協会の許可を得ていなかったらしく、あえなく中止となっていたものが、何とか映画だけは上映できる運びとなったもの。(
3月の方は予約していたのだが、今回は連休中ともあって、結局予約せず、当日の今日、文京シビック小ホールへ直接赴いた。
吉田玉男を偲んで」とのクレジットは残ったものの、映画そのものは、カナダ人が1980年に制作したものなので、玉男だけではなく、鶴沢燕三、越路大夫、先代勘十郎、先代錦糸など、もっと沢山の故人を偲ばなければならないものとなっている。(他にも玉幸、一暢・・・)
歌舞伎チャンネルなどで昔の文楽映像が簡単に観られるようになった昨今では、こうした映画の記録映像としての価値は薄くなってしまうが、映画ならではのカット割や演出はなかなか捨てがたい。なにしろ、「淡路町」「封印切」「新口村」の三段を80分でまとめてしまうのだから、その手際良さには感心する。
その一方、どうしてもカットされた詞章や旋律などが気になって、物足りなさを感じたのも否めない。大夫をアップで撮るタイミングにも、疑問を感じた部分があった。
例えば、「新口村」で、父親が隠れている息子に「名乗って出ろ」という場面、そこですぐに「今じゃない、今じゃない、今のことではないわいやい」と慌てて言い繕う場面は、もちろん大夫としても聴かせどころではあるが、ここでの人形の動きを見せないと、人形浄瑠璃としての面白さは半減してしまうのではないか。
まあ、外国人が撮った、文楽への新鮮な驚きというものは、おそらく初めて文楽に接する日本人にも共通であろうから、そういう意味での貴重な映画ではあると思う。スタッフも一流であるし。
個人的には、「封印切」での勘十郎と玉男のツー・ショットが沢山観られたのが良かった。二人の火花散るやりとりが、バスト・ショットで効果的に切り取られており、ここの迫力は、映画ならではであった。
それにしても、みんな若かったなあ。みな脂の乗り切った時期であったのだと思う。
この映画と同じ仕事を今の三業に求めたとして、果たして、どれだけのものができるのだろうかとふと考えてしまい、すぐに頭を振って打ち消してしまった。
帰り際、ロビーで売られていたDVDを観ると、どうも見覚えがあり、帰宅して確かめると、実はこのVHS版を自分は歌舞伎座の向かいのレコード屋で買っていたのであった。多分、10年くらい前であったと思うが、ああ、相変わらずだなあ・・・。
DVD版は、買わずに帰る。

Lover's Exile [DVD] [Import]

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