『宮本武蔵』

今日は映画に歌舞伎と忙しい。来月の文楽チケットの電話に20分かかった後、すぐに自転車で京橋へ。午前11時の回は初回なので、ロビーに並ぶことなく、直接入場できたが、今日も8割以上は埋まっていた。何だか同じ顔ぶれのようでもある。
今回のフィルムセンターでの溝口特集で、一番観たかったのが、この『宮本武蔵』。それは、単にDVD化されていないだけでなく、河原崎長十郎中村翫右衛門前進座が出演しているから。自分にとっては、「溝口健二の映画」というより、「前進座の映画」として、観に来たといった方が正しい。
実際、河原崎長十郎の武蔵が素晴らしい。独特の断定口調のきっぱりとした台詞廻しが気持ちよい。往年の重厚さにはまだ欠ける分、若々しい長十郎がそこにいた。武蔵の長髪オールバックに髭の面相は、文楽の「天拝山の段」における菅丞相の首(かしら)のようだった。
一方、翫右衛門の小次郎は、単なる小悪党な敵役で、武蔵より遥かに粗雑に描かれていたのが、気の毒。まあ、翫右衛門のキャラクターからして、小次郎のイメージからはほど遠いのだが。
配役でははっきりと確認できなかったが、野々宮姉弟の仇相手である佐本兄弟の一人が、瀬川菊之丞だったと思う。冒頭の一乗寺の決闘前に武蔵に詰め寄る吉岡一門の中に、加東大介(当時は違う名前だったような)もいた。他にも前進座の役者はいたのだろうが、このくらいしかわからなかった。(国太郎は出ていたのだろうか。)
溝口映画としての評価はあまり高くないようだが、それは多分に宮本武蔵モノとしての物足りなさからきているのだと思う。(原作は、吉川英治ではなく、菊池寛とのこと。) しかし、敵討ちのシーンをワンカットで撮ってしまう面白さは、ちょっと他にないと思う。
一乗寺の決闘後、武蔵が滝の下で洗った刀をかざす場面や、寺で仏像を彫っている武蔵を田中絹代の野々宮・姉が訪れる場面、巌流島へ武蔵が赴く時の船乗り場など、実に美しい映像がいくつもある。
これが何故DVD化されないのか、たとえ前進座目当てでなくとも、全く解せない。