誰?

昼休み、所用で銀行に寄った後の銀座の横断歩道の真ん中で、向こうから歩いてきた初老の男性に、すれ違いざま声を掛けられる。小柄だが体格のガッシリした、日焼け顔の男。黄色いポロシャツを着ている。会社員風ではない。
見覚えがないので、振り返って首を傾げて相手を見つめると、横断歩道を渡り終えた男は、自分を手招き。
しょうがないので戻って、歩道脇で立ち話。
「覚えていない?」と男。
「はあ、すみません。」
「ナベさんと一緒だった。ヨシダ。」
「・・・」
「元気そうだね。昼休み? 頑張ってね」
と、肩を叩いて、去って行った。
ナベさんといえば、多分「渡辺(または渡部)」のことだろう。確かに「渡辺(または渡部)」さんという名前の人と一緒に仕事をしたことはあるが、今の男性の記憶はない。
「ヨシダ」は「吉田」だろうが、知り合いの「吉田」に、やはり今の男性の姿は思い浮かばない。
男は既に雑踏の中に消えてしまった。
うーん。
仕事柄、人の顔を覚えるのは割合得意な方なのだが、全然記憶にない。普通は、話しているうちに思い出したりするものなのだが・・・。
相手の勘違いか? それともやはり自分が忘れているのか。(何しろ健忘亭だしなあ。)