国立・『曽我梅菊念力弦』

kenboutei2006-01-08

今年最初の歌舞伎。国立劇場の通し狂言。当日券買おうと電話したが、なかなか繋がらなかった。どうやら他の公演の前売りと重なったらしい。30分程経った後に繋がったが、今月は結構混んでいるようで、二階3列目での観劇となった。でも歌舞伎座と異なり、花道も良く見え、舞台全体を観るには悪くない席だった。
『曽我梅菊念力弦』は、168年ぶりに復活された南北作品。例のごとく、長くて複雑な筋を、かなり大胆にカット・編集しているが、南北の香りを残しつつ、現代の観客にマッチするような娯楽作品に仕上がっていたと思う。
後ろの席にいた老齢の男性が、途中、「こんなに短くなってたら、大南北が泣くなあ」と呟いていたが、自分も含めて大抵の観客は原作も読んでいないだろうし、曽我物語はともかく、パロディ化されている「おその六三郎」や「おはん長右衛門」の元筋を知らないという前提で考えると、こういう形になるのはやむを得ないと思う。
「銭湯の場」でのチャリっぽいやりとりは、いかにも菊五郎劇団で楽しめたし、「長兵衛内の場」の、歌舞伎(南北)ならではの辻褄合わせも、テンポの良い運びで面白かった。
もっとも、筋書を読む限り、菊五郎が赤ん坊を殺す場面があるはずなのだが、今日は殺さずに進んだ。これも、芝居を作って行く過程で、現代の観客には酷すぎると変更したのだろうが、そこまで改変する必要はなかろうとも思った。
芝雀のおきぬの鳥目が突然治ったり、松緑の七郎助が、おきぬが長兵衛の家に戻ってきているのを不審がらないなど、細部にまだ不整合の部分はいくつか残っていたが、全体的には、今に通用する水準の通し狂言となっており、国立劇場の復活狂言への取組みとしては、評価されて良い仕事だったと思う。
初春狂言として織り込まれている曽我物の部分は、付け足し感が強く、これがなくても本筋には全く影響がないが、これはこれで、目出たくて結構。(正直、少しウトウトしたが)
「対面」が世話っぽくなっており、工藤が一軒家の中にいるという設定が、面白かった。
今回、つくづく思ったのは、菊之助が、ついに菊五郎劇団の立女形になったということ。菊五郎に対して全く見劣りすることがない。「銭湯の場」で花道から出てきた時の艶っぽさといったらなかった。菊之助目当てにもう一度観てもいいくらいだ。(日程的に行けないが)
團蔵の長兵衛が、この芝居で一番の出来。彼の活躍がなかったら、多分失敗作になっていたかも。
このまま歌舞伎座にかけても面白いし、富十郎の代わりに菊五郎を上置きにし、曽我の部分を省略、松緑菊之助コンビで地方巡業しても、充分成り立つとも思った。