大阪遠征・国立文楽劇場

kenboutei2006-01-07

久しぶりの大阪日帰り文楽前回は一昨年の11月だった。
昨年秋より体調不良で東京に来れなくなった吉田玉男が気がかりで、できるだけ早いうちに遠征しよう思い、今回ようやく行けたのだが、結局玉男は今月も休演だった()。(来月の東京公演も休演らしい。)
午前7時前の新幹線のぞみに乗る。熱海を過ぎたあたりでうっすらと雪景色になり、名古屋、京都も雪だった。特に京都は降雪中で、一瞬、北海道の田舎へ帰っているのと錯覚するほどの白一色の世界となっていた。京都を過ぎると雪もなくなり、大阪は雪の気配もなかった。
一部・二部と通しで観劇。今回は、あぜくら会の割引が使えた。
一部
『寿式三番叟』新幹線の疲れで、ぐっすり眠った。
太平記忠臣講釈』一部のメイン。住大夫が「喜内住家の段」を語る。今月の大阪文楽公演は、「竹本住大夫文化功労賞顕彰記念」と銘打たれていたのでもあった。
前の「七条河原の段」は、千歳、清治。千歳大夫に、いつもの気合いと緊迫感を感じられなかったのは、文楽劇場の広さのせいだろうか。後部座席にいた分、迫力が届かなかったかもしれない。
「喜内住家」の中を文字久が語る。破綻のない語りだが、もっとテンポと間に工夫がないと、嫁と娘が老婆の前で自分の今の勤めを隠そうとするやりとりの、おかしみが出ない。
そして、切の住大夫は、元気いっぱい。自在に語っている姿は実に楽しそう。正直言って、初めて観るこの物語は、あまり好きになれなかったのだが、住大夫の語りは、そんなことを超越していた。
『卅三間堂棟由来』また眠気が襲い、あまり真面目に聴けなかった。
二部
『桜鍔恨鮫鞘』通称「鰻谷」。初めて観る。金を目当てに、婿を離縁し、持参金付きの新たな婿を迎え入れる妻とその母。元の婿は怒って母と妻を殺してしまうが、実は婿の主家の金の工面にわざと行ったことだった・・・。これも、何だか共感できない物語だが、切の綱大夫の語りが整然としていて良かった。隣の清二郎の「うなり」が、相変わらずうるさい。
『妹背山婦女庭訓』四段目。もう何度も観ているので、それほど期待していなかったのだが、今日一番面白かった。
まず、「道行恋苧環」の掛合での始大夫。ここ最近、調子が良くなってきたと感じていたが、今日はまた良かった。
「鱶七上使の段」の口で、相子大夫が一人で床に(三味線は清丈)。一人で語るのは自分は初めて聴くが、なかなか立派であった。今後に期待が持てる。
人形では、清之助の橘姫の気品ある動きが印象的。
そして、簑助のお三輪。もちろん、持ち役として素晴らしいのは知っているが、今日ほどの舞台は、病気になる前にもなかったように思う。何と言うか、単に派手で美しいというだけでなく、お三輪の持つ悲しさ、怒り、恋慕という感情が、ひとつひとつ人形にストレートに伝わっている。文楽の人形を観て、「生きているようだ」というのは全く陳腐な表現なのだが、しかし、そうとしか言いようがない。補足するなら、「簑助と人形が一体となって」生きているようだった。ああ、大阪に来て良かった。
国立文楽劇場は、展示室にボランティアの解説員を置いたり、資料室を整えたり、随分と普及に努力しているようだ。それでも、住大夫の出ない二部は相当空席が目立っており、若手だけでも満員続きの東京との違いを、改めて感じる。(まあしかし、三宅周太郎の『文楽の研究』によると、昔も大阪より地方が満員になる傾向はあったようだ。)
帰りに買った、世界無形遺産認定記念に編纂された、『文楽技芸員名鑑』(1,000円)は、重宝しそう。
午後8時20分終演。地下鉄を乗り継いで30分で新大阪駅。午後8時56分ののぞみにぎりぎり間に合った。