国立「伊賀越道中双六」

kenboutei2004-10-11

国立劇場、『伊賀越道中双六』の通し。
以前、文楽で通しを観た時は、非常に面白かった。特に、「岡崎の段」での玉男の政右衛門の迫力に圧倒された覚えがある。と同時に、簑助のお谷の哀れさも良かった。
で、今回の歌舞伎での通しも、当然「岡崎」があるのだろうと思って行ったのだが、入っていなかったので拍子抜け。どうにも敵討ちに主眼を置いて、ストーリーの辻褄を合わせるのが、国立劇場の通し狂言の目的らしい。「沼津」を「脇筋ながら前回の通しでは出していなかったので入れてみました」という趣旨の筋書解説からも伺える。
しかし、「沼津」以外はどれも全くつまらない話だ。「饅頭娘」が多少面白いが、誰の芸を観ればいいのやら。筋を語るだけの場を繋げて「通し狂言」を名乗るくらいなら、「通し狂言」と名乗らなくてもいいから、「沼津」と「岡崎」だけ見せてくれ、と言いたい。それが無理なら、もう見取り狂言でもいい。せっかくの人間国宝鴈治郎がもったいない。
「沼津」にしたって、冒頭の茶屋の情景は、まったくお寒いものだ。研修生の「稚魚の会」をそのまま見せてほしくない。
鴈治郎の十兵衛は、自分は初めて観たが、幸四郎仁左衛門と違い、上方のこってり感がある。すっきりとした江戸前もいいが、こういう茶目っ気があるのもいい。二役の政右衛門の方は、ニンにない。やらなくてもよかった。我當初役の平作は、頑張っていたが、もう一歩といったところ。人の良さは伝わるが、死をかけてまで仇の行方を知りたいという、必死さや情熱が足りない。また、前半の道中でのユーモア感も稀薄。秀太郎のお米は、娘に見えないのが残念。
客の入りは悪く、空席が目立った。「沼津」で鴈治郎が客席に降りてきた時、空いてる席に座ろうとしていたのは、彼一流の皮肉かもしれないとさえ思った。