3月ルテ 海老蔵の『夏祭』

kenboutei2013-03-17

3月のルテアトルは、当初團十郎海老蔵親子共演の『オセロ』の予定であったが、團十郎が風邪で入院、休演となり、海老蔵座頭の歌舞伎『夏祭浪花鑑』に急遽差し替えとなった。その後、2月に團十郎が急死。海老蔵にとっては、父親の死後最初の舞台、しかもルテアトルは、かつて自身の不始末で休演を余儀なくされたこともあり、何とも因縁めいた興行となった。
海老蔵の団七を観るのはこれで二度目だが、二役のお辰を観るのはこれが初めて。(東京では初役だそう。)
団七については、台詞もまずまずスッキリしていて、それほど破綻はなかったが、お辰は無理があった。おそらくは勘三郎のお辰を忠実に真似ようとしているのだろうが、例えば三婦から「色気がある」と言われて、ブツブツと捨て台詞のように文句を言っているところなどは、さすがに勘三郎のようにはいかない。もともと不器用なのだから、こういう技巧が必要とされるようなところでは、とても太刀打ちできない。柄も大き過ぎ、胸元をはだけさせているので、新宿二丁目の住人にも見えてしまう。海老蔵の場合、団七一役で十分、ニンにない役をこなせる力量はないのだから、今後もやらない方が良い。
花道がないため、下手側の通路を頻繁に利用。今日はその通路沿いに座っていたので、役者を目の前で楽しめた。通路に降りて来て、ちょうど宣伝ポスターのように、右足を前に踏み込み、上半身をぐっと前に出して決める海老蔵の姿は、独特の目力もあいまって、本当に迫力があった。
成田屋一門、新蔵の義平次が、抜擢に応えて奮戦。
亀鶴の徳兵衛、市蔵の三婦、右之助の三婦女房、家橘のお梶。
米吉の琴浦と種之助の磯之丞は、子供のカップルにしか見えない。
『夏祭』の後に『口上』。睨みがあるのかと思ったら、父親死去後のせいか、さすがにやらなかった。『夏祭』は、海老蔵アメリカまで行って勘三郎に教わった役とのことで、その勘三郎とのエピソードを語ったあと、父親のユーモラスで暖かみのある話を披露。好きだった勘三郎や父親のことを、実に率直な語り口で話す海老蔵に、好感が持てた。
追い出しは『高坏』。これも勘三郎が得意とした演目だが、『夏祭』のお辰と同様。下駄のタップが、タップになっていない。歌舞伎を観てまだ日の浅い同行者からも、何だかぎこちない、という感想が漏れていたほど。まあしかし、この不器用さが、父・團十郎の『どんつく』のように、不器用を超えた愛嬌に変われば、それはそれで一つの個性なのだが、それにはもっと人間修行(by團十郎)が必要なのだろう。
それにしても、今回の興行、父親に変わって急遽座頭となり、演目選定で勘三郎追善を意図していたものが、父親の追善も加わってしまったというのは、海老蔵だけでなく、観ているこちらにとっても、何とも言葉にならない、特別な舞台であったと思う。