11月明治座 昼夜

kenboutei2012-11-04

明治座は、新猿之助澤瀉屋一門による花形歌舞伎。いかにも明治座らしい。
昼の部
『吃又』
いつもの「土佐将監閑居の場」の前に、「近江国高嶋館の場」と「同 館外竹藪の場」がつく。お家騒動の中で、虎の絵が抜け出す件が描かれ、「土佐将監閑居」に繋げるのだが、それほど必要な場とは思われなかった。(だから普段は省略されるのだろうが。)この虎の話と、雅楽之助が注進となる経緯がわかる程度。
襖に血で描かれて実態化する虎は着ぐるみ。次の「土佐将監閑居」ではいつもの頭だけのぬいぐるみで、それぞれ異なる造形の虎の頭。通しにするなら揃えた方が良いと思った。
又平は右近。右近の口跡の特色である、声の通りの良さと台詞の明瞭さが、吃りの表現においてはマイナスに作用していた。「かか、抜けた」は、富十郎のやり方(六代目型)を踏襲。
おとくは笑也。義太夫味が薄く、表現もぎこちない。特に歩き方がぞんざいであった。
夫婦間の愛情が薄いコンビで、物足りなさが残った。
猿弥の雅楽之助、門之助の狩野元信、寿猿の将監。
『吃又』でこんなに眠かったのは、たぶん初めて。
『蜘蛛絲梓弦』猿之助の変化舞踊。外郎売りが、常磐津の床下(見台が外れ、その下)から出て来たのが面白かった。それだけかな。

夜の部
『天竺徳兵衛新噺』
昼の部とは異なり、テンポ良く進み、飽きずに観られた。
早替わり、宙乗り、ケレン。猿之助の対応能力の高さに感心。しかし、汐見の見得はさすがに無理。身体の薄さを、前後への動作と声で補うが、やはり弱い。(ここは、海老蔵の『毛剃』で見たいところ。)
面白いのは、小平次の一幕。芝居としての完成度も高い。しかし、南北の2作を綯い交ぜにする必要があったのかは、疑問であった。
冒頭は、時事ネタ。1年半振りの明治座出演、その間に猿之助襲名、いろいろと感謝。アメリカではオバマロムニーの大統領選挙。一方、日本は、自民党が政権をとろうと、民主党が政権をとろうと、我々の暮らしは一向に楽にならない。と言って、観客から拍手。(プチ政権批判で客に媚びるやり方は、好きではない。)最近CMに出ているというソルマックも登場。
大詰めの勢揃いでようやく段四郎。台詞が危うく、不安が残る。男女蔵の出演もここだけというのは、この座組では勿体ない。
屋台崩しの蝦蟇の手足がリアル過ぎて気持ち悪かった。
全体的に見た目の面白はあるが、いわゆる「カブキ」のダイジェストのようで、どこかで見た風景。初見の客には受けるだろうが、長く見てきた者に強く印象を与えるようなものではない。