11月新橋演舞場・夜の部

kenboutei2010-11-23

『逆櫓』段四郎の権四郎が秀逸。殆どこの芝居の主役といっても良い活躍振りであった。いつもの段四郎とは違って(?)台詞も良く入っていて、初役とは思えない。自分の中では、又五郎の権四郎に匹敵する。
幸四郎の樋口、剥き身の隈取りが似合っている。「権四郎、頭が高い」と言うところで戸口に立って決まる形が良かった。
しかし、『逆櫓』なのに、逆櫓の場面は省略されていて、不満が残った。。遠見の樋口を子役で観られないのは別に構わないが、船の上での逆櫓の稽古中に、突然仲間が裏切る場面がないのは寂しいし、どこか片手落ちの気がする。
最後の立ち回りでは、捕り手がとんぼをきる時の幸四郎のきっかけが、ちょっと大仰でおかしかった。腕の動きが恰好付けすぎで、動物ショーの調教師のようだった。
魁春のお筆は、全体的に気持ちの入りが弱い。女武道にも見えない。高麗蔵の女房は奮闘。金太郎の駒若は、硬直して顎が上がっていた。富十郎休演で彦三郎が畠山。
『梅の栄』舞台大セリから御曹司が登場。最初は誰が誰だかわからず、筋書を追いながら確認。種太郎、右近、種之助、米吉。やはり右近に一日の長。花道スッポンからは宜生が登場。動きはぎこちないが、少し寂し気な表情が、これからを期待させそうな感じ。
これからの歌舞伎を担って行く、御曹司たちの踊りを、微笑ましく観た。
ああ、芝翫もいたのか。
『忍ぶの惣太』歌舞伎座で二度程観ているが、「おまんまの立ち回り」があるということぐらいしか印象に残っていない。今回もあまり期待していなかったのだが、予想外に面白かった。
菊之助初役の花子が素敵。傘をさして花道を引っ込む時の、持ち手の形が美しい。時々見える赤い襦袢も艶かしい。松若丸になってからは、声の良さで魅せる。『弁天小僧』や『十二夜』同様、男女の性を行き来できる倒錯感が、菊之助の魅力であり、この芝居の花子実ハ松若丸も、ぴったりの役であったということが、自分にとっての収穫。今後も持ち役として期待したい。
菊五郎が忍ぶの惣太に回る。峰蔵役も含めて、こっちの方が合っているように思う。
今日の芝居が面白かったのは、菊五郎劇団としてのアンサンブルの良さによるものが大きい。「惣太内」での菊十郎、松太郎、団蔵らの演技が、芝居の味わいを深めている。その中で、歌六の按摩が馴染んでいたのも、特筆すべきこと。
時蔵のお梶は普通、萬次郎の班女の前はまずまず。
梅若丸の梅枝がとても良い。前髪姿が古風。顔が長いのが良い。曾祖父の三代目時蔵の面影がある。この古風な顔は、若手では貴重である。
「おまんまの立ち回り」は納豆付きであった。