『驟雨』

kenboutei2009-07-09

神保町シアターの成瀬特集。今日は『驟雨』を観る。『驟雨』というと、どうしても吉行淳之介の短編を思い浮かべるが、それとは全く無関係。
以前、BSで放送されていたのを断片的に観たことがあり、原節子が立ちながらお茶漬けを食べる場面や、ラストに夫婦で紙風船を打ち合う場面は印象に残っていた。この映画だったのか。
原節子佐野周二による夫婦の倦怠期ドラマ。岸田国士の戯曲に基づくせいか、台詞が舞台劇のようで、特に冒頭の、休日に夫婦で出かけるか否かをめぐる、佐野周二原節子の会話は、とても普通の夫婦の会話とは思えない、戯曲家の主張が入っていて、正直つまらなかった。
原節子は、夫の佐野周二に対しては、かなりギスギスしているが、姪の香川京子に対しては、嬉々として接する。これは、物語の設定を越え、原節子香川京子という関係性において、とても興味あることである。この二人は、『東京物語』や『女であること』でも共演していたが、どこか不思議な相性があり、もっと言ってしまえば、レズビアン的な匂いすら感じるのである。原節子香川京子を見つめる眼差しは、男に対するそれよりも、深く激しい愛が宿っているように思えてならない。
まあ、そんなことはこの映画の主題ではないのだが、どうにもお互いの存在が疎ましくさえ思っている夫婦仲が、隣に越してきた若夫婦や、野良犬をめぐる近所との軋轢、夫の胃の病気と会社のリストラなどのサイド・ストーリーを経ていくうちに、だんだんとその現実をあるがままに受け入れて行くという、極めて日本的私小説的エンディングに収斂していき、その象徴がラストの紙風船バレーとなる。
佐野周二がふらふらしながら紙風船を扱うのに対し、原節子は、「まだまだ」とか「しっかり」とか言いながら、一発で打ち返す。この辺も戯曲っぽくて、鼻白む。
似たようなテーマの、小津の『お茶漬けの味』との共通性もあり、比べてみるのも面白い。
何度か観ているうちに、味わい深くなるような気のする、映画。