7月歌舞伎座・昼の部

kenboutei2009-07-04

五重塔勘太郎ののっそり十兵衛、獅童の源太。幸田露伴の原作も読んでおらず、過去の舞台も観たことはないが、九朗右衛門が出ていたとか、前進座でも出していたということで、名前だけは知っていた。
筋書のあらすじも読まずに白紙の状態で観たが、そんなに面白い芝居ではなかったなあ。
なぜ十兵衛は、五重塔の普請を一人で請け負うことに拘るのか、なぜ源太は、自分の仕事を奪われても十兵衛を助けようとするのか、舞台上の芝居からだけでは、なかなか理解しにくかった。
職人達の造反があったのに、あっさり五重塔が完成してしまうのも不思議。漢字が読めないと馬鹿にされていた十兵衛が、五重塔完成後の落慶式で、難しい漢字の書いてある制札をスラスラと読んでしまうのも不思議。
まあ、そんな些細な疑問も、十兵衛と源太の職人同士のやりとりに面白さがあれば、全く気にはならなかったのだろうが、勘太郎獅童では、残念ながら、芸で理屈をねじ伏せるまでの力はなかった。獅童の源太は、現代的過ぎて、大工の親方というより、運動部のキャプテンのようだ。勘太郎の十兵衛は全然「のっそり」に見えない。(声や雰囲気は、ますます父親そっくりになってきた。)
何しろ江戸の雰囲気がまるでないのが致命的。それは、この二人だけでなく、春猿、吉弥、巳之助ら他の役者にも言えることだし、また、舞台装置を含めた演出そのものも、何だかサラサラして味わいがなかった。市蔵の上人もニンにない。唯一、寿猿の用人・為右衛門にそれらしい気配を感じたのだが、まだ台詞が入っていなかった。
ということで、何故さよなら歌舞伎座興行で、この芝居、この座組が選ばれたのか、さっぱりわからないまま、時間は過ぎてしまった。
『海神別荘』玉三郎海老蔵の幻想空間。舞台芸術としてはもはや完成されており、3年前の感想と殆ど変わらない。
猿弥の僧都が、立て板に水のごとく、澱みなく台詞を言うのに驚く。あまりにも自然に話しているので、逆に泉鏡花独特のリズム感とは違ったものになったような気もするが、異界の僧都という一つのキャラクターを、猿弥自身のものとして作り上げたのは立派である。
それは、笑三郎の女房役にも言える。玉三郎の鏡花シリーズで、この二人は相当成長したように思う。(変わらないのは海老蔵だけかも。)
中盤、門之助の博士と海老蔵のやりとりが、ちょっと退屈だった。
終わって帰ろうとしたら、まだ明るくならず、カーテンコールとなった。前回もあったのに、忘れていた。(何故か猿弥の姿がなかった。)