『王将』

kenboutei2009-04-05

神保町シアター
伊藤大輔は、北條秀司のこの戯曲を三度映画化したそうだが、その最初の一本。つい先日、二度目の映画化である辰巳柳太郎主演の『王将一代』を先に観て、そのラストに衝撃を受けたばかりなので、偶然だが、このタイミングで観ることができて良かった。
冒頭、あのユニークな配役紹介画像はなかったが、境内の素人将棋大会で、三吉が「一」をたくさん書いて記帳する場面は同じ。
その後の展開は、微妙に違う。三吉のライバルの名前は、入江名人ではなく、関根名人。子供は、娘と息子で、男の子の方は、早くに死んでしまう。
天王寺の長屋での草履作りや、奇手を使って勝利したのを娘に諌められる場面などは同じだが、係わる人やシチュエーションなどは、やはり異なる。
もっとも、先に作られたのはこっちの方なので、『王将一代』が違っているというべきなのだろうが、しかし、三吉を支える小春にスポットを当て、小春の死までを描いた、この『王将』より、小春の死はあっさりとやり過ごし、棋界の東西対立や、三吉の周りの男の友情や打算が描かれていた『王将一代』の方が、ストーリー的には面白かった。
名作の誉れ高い、オリジナル(?)の『王将』をようやく観ることができたのに、物足りなく感じたということは、やはり作られた順に観た方が良かったのかもしれないなあ。
オリジナルの主演は、もちろん阪東妻三郎。イメージは、辰巳とも重なるものがある。
小春の水戸光子は、どこかで聞いた名前だと思っていたが、『沓掛時次郎』に出ていた女優だった。
『王将一代』もそうだったが、通信手段としての電話が、重要なファクターとなっていた。特に『王将』では、危篤の小春に、三吉が電話で語りかける場面がクライマックス。途中で通信局に「話し中、話し中」と通話を続ける合図をするのが、印象的であった。

王将 [DVD]

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