『お国と五平』

kenboutei2009-03-06

神保町シアターで、『お国と五平』。
原作が谷崎で、歌舞伎でも上演されており、監督が成瀬、友右衛門(雀右衛門)も出演しているとあって、今回の特集で一番観たかった作品。
しかし、観終わってみると、期待していたほど面白くはなかった。
夫を過去の許嫁(友之丞)に殺され、その仇討ちのため諸国を巡るお国と、侍従五平。二人は数年の旅の間に主従の関係を超える。やがて仇である友之丞が姿を現すが、友之丞は最初から二人の後を追っていて、二人がわりない仲になったことを知った上で、命乞いをする。戸惑いながらも友之丞を斬り殺す五平。いまわの際に、友之丞は自分がお国と関係があったことを五平に告白して死ぬ。帰路についても、五平はその声が頭から離れないのであった・・・。
以前読んでいた原作はすっかり忘れていたので、友右衛門の五平が、友之丞の声に苛まれながら、走り去って行くところでのエンドマークに、「これで終わり?」と思ってしまった。
帰宅してから原作を改めて読み返すと、話の筋はだいたい同じだが、戯曲のためか、極めてシンプルで短いストーリー。したがって、映画化では、お国と五平の旅のやり取りに、結構時間を割いた演出となっていたのだが、それがかえって冗長で退屈になった原因だと思う。
それでも、その冗長さのおかげで、旅の宿に泊った人形芝居の一座で、当時の三和会の芸を観ることができたのは、ちょっとしたご馳走であった。旅館の一間での『新口村』。先代勘十郎が忠兵衛を遣っていた。(梅川と床が誰だったかは不分明。)松雪を描いた屏風を新口村の背景に模していたのは、うまいやり方だと思った。
小暮実千代がお国を演じる。長い仇討ちの旅で疲れ果てている姿が、異様に艶かしい。特に宿で白い襦袢ひとつに身を包んでいる時の色気は、五平を迷わせるのに充分なパワーがあった。顔の幅の広さと、鋭い顎のラインが、千弥に似ている。
大谷友右衛門の五平は、侍の髷姿はよく似合っていたものの、お国に忠実過ぎて、彼女との一線を超えざるを得なかった、自らの色気に欠けていたのは、元が女形であるだけに、残念であった。
山村聡の友之丞は、ミスキャストのようにも見えるが、これは主として成瀬の演出の方に責任があると思う。原作を読むと、この物語の主役は、お国と五平よりも、むしろ友之丞にあると考えるのだが、そこに焦点を当てた映画にしていたら、印象も相当違ったことだろう。
そういう意味では、解釈次第でもっと面白い映画になったのではないだろうか。溝口や黒澤がこの戯曲を取り上げたなら、どう料理していただろうと考えると、興味は尽きない。
歌舞伎化された舞台も、一度観てみたい。