『その場所に女ありて』

kenboutei2009-03-05

神保町シアター鈴木英夫監督の『その場所にありて』。1962年の作品。
広告代理店の熾烈な受注合戦の中で、男と伍して働く、キャリア・ウーマンの物語。企業ドラマは苦手なのだが、司葉子の奮闘と監督の力量で面白く観ることができた。
60年代の銀座のスナップショットに、気怠いポップス調音楽が被さったオープニング。どこか松竹ヌーヴェル・バーグやその後の70年代の風景を先取りしたような印象で、東宝のプログラム・ピクチャーとしては異色のトーン。
広告代理店で働く女性たちは、わざと男言葉を話し、煙草スパスパ、麻雀も酒も平気で付き合う。
業界特有の部分もあるのだろうが、男社会で女がやっていくためには、男と全く同じことをしなければならないということなのだろう(ちょっと誇張し過ぎているような気もするが)。今は、男も職場で煙草を吸わない(吸えない?)し、麻雀や酒も、昔ほど付き合いは濃くない。性差を認識した職場環境の変化以上に、もっぱら男から「男っぽさ」が失われてきた歴史の積み重ねが、現代なのだと思う。(もっとも、それが悪いとは全然思わない。この映画のような職場環境は、男の自分もご免だ。)
それはともかく、この映画は司葉子のクール・ビューティー満載なのが魅力。典型的なハウスワイフで、仕事といえば刺繍の内職か、本屋の売り子しかできなかった『妻という名の女たち』とは正反対の女性像。どちらの司葉子も好きだが、この映画での「男っぷり」、それ故の美しさは、この時この年齢での司葉子でしか演じられなかっただろう。
鈴木英夫の映像は、シネスコサイズの画面をうまく利用した作り込み。司葉子のアパートの部屋のデザインなどもユニークで素敵であった。
当時の銀座界隈の景色がリアルに残されているのも嬉しい。
宝田明がライバルの広告代理店の営業マン。司葉子と関係を持つが、デザイナーの引き抜きがバレて、振られてしまう。
そのデザイナ−に浜村純。蝶ネクタイ姿が全く似合わないミスキャストが、逆に面白かった。
水野久美は、男に金を貢いだあげくに騙され、自殺してしまう薄幸な女役。無理して男と対立して生きていく、司葉子ら他の女性社員との対比として描かれているが、ちょっと設定に無理があると思った。
他に、西村晃山崎努、森光子、児玉清(またも女のヒモみたいな軟弱役)など、魅力ある脇役陣。
終映後、近くの客から拍手。(一人だけでしたが。)