新春浅草歌舞伎 一部・二部

kenboutei2009-01-18

獅童愛之助が抜け、松也が加わる、マイナー・チェンジした座組。
第一部
『一條大蔵譚』初めて観る「曲舞」が面白かった。亀治郎の大蔵卿は、最初に上手から出て来た時の阿呆顔が、ちょっと造り過ぎており、下品にさえ思えたが、正面で台詞を言い始めると、落ち着いた。それにしても猿之助に似ているなあ。
後は、「奥殿」を含めてそつなくこなし、取り立てて文句のつけようはない。亀治郎の場合、器用なのはわかっているので、その出来栄えがどれも及第点は超える。しかし、その先の、感動するまでの芝居には何故か至らない。それは自分の受け止め方にもよるのだと思うが、今日もそんな感じであった。
勘解由の首を討取る時の長刀の扱いが見事。首を包む布が白ではなく、赤茶色だったのは、澤瀉屋の型なのだろうか。
「曲舞」での男女蔵の広盛が大きくて良かった。
亀治郎男女蔵に鶴亀の勘解由が加わった、三人での曲舞の絡みは、滑稽味やおおどかな雰囲気には足りず、さすがにここは若手ではまだ早いのかもしれない。
「奥殿」で勘太郎の鬼次郎登場。花道七三で見得をするところなど、随分と顔が立派になったなあ、と感心。
七之助常磐御前は平凡。
松也のお京、眉毛を剃ったのっぺら顔が、ちょっと不気味であった。
『土蜘』これまでこの舞踊は、たいてい眠気を催し、あまりまともに観れた試しがなく、実際今日も、最初はうつらうつらしていたのだが、勘太郎の智籌が花道に出て来た瞬間から、眠気は吹っ飛んだ。
「奥殿」の鬼次郎の顔にも感心したのだが、この勘太郎の智籌の顔は、尋常ではない。土蜘の精としての怪異な「気」が充満している。化粧による部分もあるが、それ以上に勘太郎自身の内面から発せられた、鬼気迫る顔なのである。
舞台正面に来て、頼光と対峙する時の迫力も凄かったし、そして何より、踊りのイキの良さに驚いた。所作板も割れんばかりに、膝を打ちつけるのはちょっとやり過ぎに思うが(その音の凄さといい、まるで猪木のフライング・ニードロップのようだった。)、扇を巧みに使いこなしながらの、身体ごとの円形運動、太刀持ちの子役をまさに食い殺そうとするかのような迫り具合(ここでの目の異様な光と白眼もすさまじく、とてもおそろしい。子役は夢に出て来るのではないだろうか)など、緩急織り交ぜたドラマチックな動きに、半ば呆然としながら舞台に魅入ってしまった。
そして再び、勘太郎の顔をほれぼれと見直した時、どこか老成したようなその顔が、初代吉右衛門によく似ていると気がついた。血筋であるので似ていないわけはないのであるが、今まで勘太郎の顔から吉右衛門を連想したことなどなかったので、自分でも少し驚いた。
後シテも立派。特に目の動きが良い。
とにかく、これまで自分が観てきた『土蜘』の中では一番面白かったし、勘太郎の踊りの中でも、一つの節目になる舞台となったのではないだろうか。
唯一、数珠を口元に持っていっての見得が、やや数珠が開き過ぎ、口裂け女みたいな感じになっていたのが、個人的には残念。(それも凄みといえば凄みだが。)
『土蜘』は、父の勘三郎も、さらに先代の勘三郎も踊っていないという。そういう意味では中村屋には由縁のない演目なのだが、ここまで凄みのある舞台を見せられるのだから、勘太郎には、いっそのこと、『勧進帳』の弁慶にも挑戦してもらいたい。(それこそ、中村屋にとっては、前代未聞のことであろうが。)
松也の頼光は、すっきりして良い。久月雛人形のようだった。
七之助の胡蝶。
 
第一部の口上は七之助。最初の年の客入りが悪く、それをここまで盛り上げた努力話。客席には降りずにあっさり終わる。


第二部
『一本刀土俵入』勘太郎の茂兵衛、亀治郎のお蔦。
勘太郎の茂兵衛は、前半の取的は、勘三郎写しだったが、まだ自分のものにはなっていなかった。後半の渡世人の方が立派で良い。台詞廻しが特にうまい。
亀治郎のお蔦は、彼にしては神妙。
男女蔵の儀十は、滑稽めいたところが余計な演技に見えた。
昨年の新橋演舞場同様、由次郎、桂三の船頭と大工が味わい深い。この芝居の名風景。宗之助の若船頭も良かった。
一方で、子守りに千弥が出ていないのが寂しい。
京鹿子娘道成寺七之助の花子。以前の『鏡獅子』ほどガチガチではなく、何とか踊っていたが、それでも出来は良くない。同じ初役でも兄貴の成果とはだいぶ差がある。
花道七三で、鐘を見上げるところは、仰け反り過ぎて、そのまま後ろに倒れるのではないかと思った。
振出し笠を持った立ち姿が、なかなかキュートではあった。
亀治郎、松也が所化で参加。上手・下手から、二人にガン見されていては、七之助もさぞやりにくかったのかもしれない。(上手に座った亀治郎は、七之助の足元ばかりを注視していた。)
筋書には後見の一人に小山三の名前があったのだが、今日の舞台には出ていなかった。千弥ともども、ちょっと心配。
 
口上は松也。浅草歌舞伎に初参加できた喜びを語る。七之助と違って、舞台から降りて、前の座席の二人組の女性客にインタビュー。出演者で誰が好きかと聞いて、二人とも「松也」と答えたのを無邪気に喜んでいた。やはり若いねえ。(自分などは、客が「松也」と呼び捨てにしていたことの方が気になって仕方がなかったが。)