『フィクサー』

kenboutei2008-09-20

札幌駅前の蠍座で。800円。
ジョージ・クルーニー主演の、社会サスペンス。
原題は主人公の名前の「マイケル・クレイトン」。初めにそのタイトルが出た時は、SF作家のマイケル・クライトンが原作者としてクレジットされたのかと勘違いしてしまった。(そういえば、トム・クルーズ主演の『ザ・エージェント』も、原題は、主人公の名前だったなあ。)
その後、すぐにそれが主人公の名前であるとわかるのだが、話の展開が早くて、その他の登場人物の名前がなかなか覚えられず、誰がどちら側の人間かがわかるまでは、ついていくのが結構大変であった。そして、だんだんと事件の核心が明らかになるにつれ、どんどん話にのめり込んでいけた。
邦題の「フィクサー」とは、企業の裏の仕事を担う、「揉み消し屋」のこと。ジョージ・クルーニーは、薬害問題で巨額の訴訟を起こされている大企業の弁護事務所側の人間として、表の弁護士活動とは別に、裏で働く稼業。
裏稼業の身分の不安定さに、副業を営むが失敗、ギャンブル癖もあって借金を抱えている主人公は、表の仕事に戻してくれと上司に訴えるが、「表の仕事で優秀な人間はいくらもいる。君は表ではそこそこ。しかし、裏の仕事では優秀で、この仕事をそこまでできるのは、君しかいない」と、退けられる。
要するにその仕事にしか適性がないと通告されるわけで、そこに企業人事の冷徹さを感じてしまい、とても他人事とは思えなかった。
そして、訴えられた農薬会社側の、企業内弁護士の法務部長についても、やはり他人事ではなかった。
「会社のため」という見えない、そして見えないからこそ逃れられなかったプレッシャーに、正常な判断ができなくなる。社内の不祥事、違法行為に気がついたとしても、今の立場や保身から、むしろもっと違法な行為へと走ってしまう。決して悪人ではない、普通のビジネスマン、家庭では善人のはずの人間が、そういう行為を取らざるを得ないところが、組織というものの恐ろしさでもある。
この法務部長の役を女性にしたのが、この映画の面白さにも繋がった。ティルダ・スウィントンは、真面目な会社人が、組織の中で追い込まれていく様子を、実にリアルに演じていた。
ラストの、クルーニーとスウィントンの対決が、最大の見もの。クルーニーの格好良さに、シビレてしまった。
日本では、この手のフィクサーは、例えば総会屋や暴力団対応などの、総務部門の仕事だろう。まあ、ジョージ・クルーニーが演じたようなイメージとは大分違うし、あんなにカッコイイ男の仕事でもない。
休暇を取り、仕事を忘れて息抜きしようと観に来た映画で、リアルな企業映画を選択したのは、ちょっと誤りだったかもしれないが(ワーク・ライフ・バランスなどの言葉も普通に出てきた)、その分、忘れ難い映画となりそうである。

フィクサー [DVD]

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蠍座は、駅前再開発の後にできた名画座なのだろう。初めて入ったが、深々とした赤い椅子が座り心地良く、スクリーンは見上げるような感じで観ることになるのだが、前の人の頭は邪魔にならないような、うまい設計をしている。
館内に喫茶店も併設し、池袋の文芸座に似たイメージであった。上映作品の選択を含め、映画ファンには愛されそうな映画館であり、来札で時間のある時には、また立ち寄ってみたい。