『淑女と髯』

kenboutei2008-08-02

中野翠『小津ごのみ』に誘発されて、小津のDVDを一本選択。(本当はもっと早く観ようと思っていたのだが。)
岡田時彦主演のサイレント・コメディ。髭面のために就職できないバンカラ男が、路上で金を強請られるところを助けた娘の助言で髭を剃り、就職先は見つかる上、それまで毛嫌いされた女性にもモテたりする、その単純さがおかしい。
バンカラ男のアパートが、和洋混在(畳の上に火鉢がある一方で、テーブルと椅子、外国映画のポスターが貼ってある。)なのは、前の『その夜の妻』と同じ。ロケ地の無国籍風も、同様。
岡田時彦のコメディアンとしての才能が遺憾なく発揮された作品。冒頭の剣道のドタバタはそれほどでもなかったが、友人の妹の誕生会で披露する剣舞などは、結構おかしかった。一見、二枚目なのだが、顔の表情を含めて、コメディのできる身体能力を持っているのに、ちょっと驚いた。
他にも、ケーキを鷲掴みにして、まるでおにぎりでも食べてるかのように、ぱくぱくと食べ出すところや、これは岡田時彦ではなくヒロインの川崎弘子の方だが、嫌な縁談話を別室で聞いている時に、拭いている湯呑み茶碗を、口に吸い付けては落とすようなことを突然しだす場面が、とてもおかしく、この二つのシーンは思わず声を出して笑ってしまった。
テーブルを挟んだ男女が、同じ動作をするなどの古典的ギャグもあり、やや演劇的な趣きがあった。
冒頭の剣道の試合を、子供(突貫小僧)が上座で観覧しており、御前試合だとしたら、(何しろふざけた試合なので)ちょっと大胆な演出だなと思ったが、当時(昭和6年)の検閲でも問題になったそうである。
岡田時彦に惚れる川崎弘子が、とても可愛い。まるで夢二の絵に出てくるような女性なのだが、岡田時彦のアパートに朝から別の女がいても、動ぜずに中へ入っていくなど、意思の強さもまた魅力的であった。
登場人物の視線の動きで物語を進める手法が多用された、「視線の映画」でもあった。
・・・あまり『小津ごのみ』の話題と共通する部分はなかったなあ。

小津安二郎 DVD-BOX 第四集

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小津ごのみ

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