三月歌舞伎座・昼の部 初日

kenboutei2008-03-02

歌舞伎座昼の部、初日。
演目も配役もそれほど頭に入れておらず、ただ福助が初役で夕霧を勤める『吉田屋』だけが楽しみ、といった程度で歌舞伎座に入ったのだが、結局、山城屋藤十郎の若々しさと、團十郎の大きさで充実した『陣門・組打』が最も印象に残った。
『陣門・組打』は、まず、小次郎役の藤十郎の花道の出が衝撃的。
花道から出てきた時、随分小柄で、素早くトコトコと駆けて行くので、本当の子役か、御曹司若手が演じているのかと一瞬思ったのだが、七三で止ると、藤十郎であった。前髪の武者鎧姿の、なんと美しく、若々しいことか。80歳近くになって、この役をやれることも驚愕であるが、その上、自分がこれまで観たどの小次郎(梅玉染五郎福助)よりも、初々しく、ニンに合っているのが凄い。
舞台に来て、門の前で耳に手を当て陣太鼓を聴き入る形の素晴らしさ。別に無理に若作りしているのでもなく、ただ立っているだけ、ただ動くだけで、熊谷次郎の一子小次郎その人にしか見えない、藤十郎の芸の凄みを感じてならなかった。
團十郎の熊谷は、最初の花道の出はドタドタとしており、また第一声も粗雑でよくなかったが、その後は持ち直し、心理描写を肚に抑えた骨太な熊谷で、非常に良かった。
特に見どころは、藤十郎の小次郎(敦盛)の首を討つ場面。前回幸四郎・福助で出た時は、親子の感情丸出しで辟易したのだったが、さすがに團十郎藤十郎となると、そんな小さい芝居はしない。あくまで敦盛として首を討つ熊谷が、「せがれ、小次郎が手傷を負っても心配なのに」といった趣旨のことを言った時の、「せがれ」という台詞が力強く、かといって決して感傷的ではないのに、團十郎の役者としての大きさを実感し、それを受ける藤十郎も、わずかに顔を厳しくするだけで、最後まで敦盛としての気品を保っていたのも素晴らしい。
『組打』は、その後の『陣屋』を知っている観客にとっては、実に納得しにくい芝居でもあり、だからこそ幸四郎などは、実は我が子を討っているということを、演劇的に表現しようとしていると思うのだが、この二人の芝居は、そうした矛盾をあっさり凌駕するものがあり、これはやはり、二人の芸容の大きさのなせるものであろう。
全てが終わり、敦盛の鎧などを片付ける時の、團十郎の動きも、堂々としている中に、既にこの世の無常を思い、この後の『陣屋』の結末を予感させるものがあり、こういう熊谷は、自分は初めてである。
市蔵の平山、魁春の玉織姫と役者が揃い、昼の部で一番良かっただけでなく、藤十郎團十郎の江戸で初めての共演に相応しい、記念すべき舞台になったのではないだろうか。
『吉田屋』は、期待していたほどではなかった。仁左衛門の伊左衛門は大好きなのだが、今日はあっさりした感じ。福助の夕霧も悪くはなかったが、特筆すべきこともない。全体的に平板な印象。
左團次の喜左衛門、秀太郎のおきさ、愛之助の太鼓持。
一巴太夫を中心とした常磐津が実に気持ちよかった。
他に開幕に『春の寿』と題して、踊り三題。その中では、梅玉『萬歳』が面白かった。
菊五郎『女伊達』は、うとうとしている間に終わってしまっていた。
 
・・・藤十郎の若々しさに驚き、夜の部の『道成寺』もさぞ良いだろうと、急遽当日券を買って観ようかとも思ったが、時間の関係で断念、それは来週の楽しみとしよう。 

初日とあって、幕間のロビ−は、團十郎夫人、仁左衛門夫人に、菊五郎夫人(富司純子)、藤十郎夫人(扇千景)と揃い踏みで、それは華やかでした。特に扇千景は、ショートカットの髪を美しくカラーリングし、旦那に対抗しているかのような若作りであった。(凄い夫婦だ。)

昼食に、『暫』でカレーを食べようと思ったら、なんと先月で閉店していた。(代わりに、別のカレー屋へ行く。)