国立・『小町村芝居正月』

kenboutei2008-01-27

先週一度観ているし、色々としなければいけないこともあるので、今日はやめようかとギリギリまで迷っていたのだが、ふとテレビで玉三郎の特番(NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』)を眺めているうちに、突然、観に行く気になって出発。先週はうとうとしながら観ていたせいで、今日初めて気がつく場面があったりで、二回でようやく一通り観たという感じ。
国立劇場の正月は、最近は菊五郎劇団による復活狂言。なかなかな人気で、去年は当日券が買えずに結局見逃している。
今年は、寛政元年に桜田治助が書いた顔見世狂言を219年振りに復活したという前宣伝であったが、実際は復活狂言というより、新たに書き換えた、全く別の作品といっても過言ではなく、筋書の「補綴のことば」を読むと、何故原作を変えざるをえなかったかという言い訳ばかりが書かれている。おそらく三幕目の踊りなど、自分は原作を読んでいないが、相当変質しているのだろう。
他の場についても、いわば菊五郎流の「引き出し」で、どこかで観た歌舞伎の名場面を繋ぎ合わせた格好となっており、肩の凝らないエンターテインメントとしては、十分な水準であろうが、寛政年間の江戸歌舞伎の趣きを期待して観に来る客にとっては、間違いなく肩透かしをくらう。まあ、そんな客が沢山いるとも思えないので、広く世間にアピールするには、菊五郎のやり方が正解なのだが、それを国立劇場でやることについては、その成り立ちから考えて、疑問が残るところではある。
そんなわけで、芝居の中味は特筆すべきこともなく、菊之助の狐忠信ばりのケレンと、松緑初役の『暫』くらいしか印象には残らないのだが、どちらも、こんな中途半端な復活狂言の中でお茶を濁すのではなく、しっかりした狂言立ての中で観たいものだ。特に、松緑の方は、孔雀の羽の素襖(黒地に白の羽で、一瞬、蛇の群れに見えた程、変なデザイン。)ではなく、家の紋をつけた、ノーマル・バージョン(?)を早く観たい。
今日は千秋楽とあって、菊五郎劇団お馴染みのお遊びもあった。
最後の『暫』(正確には大詰「神泉苑の場」ですが)で、ウケの菊五郎が、赤っ面の腹出しに向かって、「メタボの皆さん」とやり、菊之助松緑を揚幕に帰ってもらおうと、くだけて語りかける時、「おしりかじり虫〜」と歌い出し、松緑が、「楽屋でそんなことばっかりやっていた」と返す。
場内は爆笑であった。
今月は、国立劇場の復活狂言の仕事としてはあまり評価できないが、菊五郎劇団の現在を知るという意味では、実に象徴的な興行だったのかもしれない。