『地獄』

kenboutei2007-08-17

京橋で、『地獄』。前回の失敗もあり、今日は開始1時間前に行く。(結局満員にはならなかったのだが。)
中川信夫の奇作としてあまりにも有名だが、自分は初見。新東宝の変なオープニングロゴも初めて観た(と思う)。
後半の地獄絵図をそのままベタで観せるのも凄いが、個人的には、養老施設「天上園」の描写の方がインパクトが強かった。
上半身裸の老婆が人前で普通に歩いている養老施設の、何ともいえない息苦しさや、それを取り巻く住人たちの人間関係の中で浮き彫りにされる日本の村社会の醜悪さが、観ている方の気持ちも一気に暗く寂しいものにさせるのである。何度か挿入される、蒸気機関車の疾走や、「天上園」の行き先を示す木造の案内板も、ただただ寂しい。
開園10周年記念のどんちゃん騒ぎで、カメラが老人達の部屋と園長側の部屋を交互に、どちらもゆっくりとしたズームを用いて映し出す場面では、その乱痴気騒ぎの不気味さに、こちらも気が狂いそうになり、早く終わってくれと心の中で呟いた程であった。
地獄の数々の責め場面では、皮剥ぎの刑が恐ろしい。
主演の天知茂よりも、その友人役の沼田曜一が凄かった。登場する毎に観客を不快にさせずにはいられないその怪演は、むしろこの映画の主役といっても良いかもしれない。どことなく、仲代達矢的な演技でもあった。
ヒロインは三ツ矢歌子で、天知茂の恋人と実の妹の二役。中原淳一描く表紙絵から出てきたような感じで、この救いようのない人間模様の清涼剤となっていた。
天知茂の父親の妾役の山下明子が、天上園の宴会で見せる踊りが、形が決まっていてなかなか良かった。
地獄の閻魔大王はアラカンで、ナレーションが若山弦蔵であったことは、観終わってから知る。
また、沼田曜一と三ツ矢歌子が、今回のフィルムセンター特集である追悼対象者であったことも、映画を観ている時には、全く思い出しもしなかった。
それだけ、観る者をスクリーンに釘付けさせる衝撃映画だが、フィルムセンターでは時々ある、英語の字幕が唯一、集中を妨げた。
子供に見せると絶対トラウマになること間違いないが、大人が今観たって、トラウマになる。(自分は天上園がトラウマになりそうだ。)
ラストシーンは、二役の三ツ矢歌子が、それぞれピンクのパラソルを持って昇天していくのだが、あれが天国に行ったことの暗示だとしても、結局観客の心は晴れないまま、劇場を後にするのだった。

地獄 [DVD]

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