錦之助襲名・四月歌舞伎座・昼夜

kenboutei2007-04-22

今月は休日出勤も想定されていたので、あらかじめ芝居見物はこの日だけとし、昼夜通しで観る。
錦之助襲名興行だが、何だか華やかさには欠けていた。(夜の部は、日テレの女子アナや海部元首相、福井日銀総裁などの有名人を見かけたが。) 
まず昼の部
『當年祝春駒』獅童勘太郎七之助歌六。浅草歌舞伎のような陣容。獅童の五郎の隈取りは、全体が顔の真ん中に寄って見えるので、見栄えが悪い。
『頼朝の死』たぶん初めて観る。自分一人だけが頼朝の死の真相を知らずに、苛立つ将軍頼家。話自体はつまらない。梅玉の頼家は、性格異常者を演じるには素直すぎる。福助の小周防が、ハリウッドのサスペンス映画を観るような、大げさな芝居を見せて興醒め。手を口に当てて嗚咽したり、派手な仕種で倒れたり。タカアンドトシではないが、「欧米か!」と突っ込みたくなった。芝翫が堂々たる存在で威圧感があり良かった。
『男女道成寺仁左衛門勘三郎という、襲名ならではの組み合わせ。ただ、単なるご祝儀舞台で、どちらの踊りも面白味がなかった。(仁左衛門の娘姿を観られたのは、まさにご馳走だったが。)
『菊畑』錦之助の襲名狂言。舞台成果でも、昼夜通じて一番良かった。富十郎の鬼一法眼が絶品。上手から登場し、菊を眼鏡で眺める様や、台詞のひとつひとつに、きっかりとした品格があり、とても気持ちが良かった。それに呼応して、吉右衛門の智恵内がゆったりとした大きさのある芝居で面白い。時蔵の皆鶴姫も立派。信二郎改め新錦之助の虎蔵はあまり記憶に残らなかった。
劇中で、口上。富十郎が足を怪我したそうで、一言断ってから、高合引に座って挨拶していた。
幕切れが絵面の美しさで良かった。特に時蔵の形が美しかった。

続いて夜の部。
『実盛物語』仁左衛門の実盛。孫(!)の千之助の太郎吉とのやりとりが微笑ましい。千之助、見得が大きく、なかなかの役者っぷり。
『口上』総勢23名。

  • 富十郎:関西時代、先代錦之助と仲良くなった。もう60年も前の話。(昼の劇中口上とは違い、きちんと座っていた。)
  • 雀右衛門:新錦之助は、自分とは「少しだけ」年が離れているが、いずれ一緒に芝居できることを楽しみにしている。(あっさりとした挨拶で、途中で詰まることもなく、安堵。)
  • 仁左衛門:初代錦之助が映画に行ってしまい、寂しかったが、今度その名が再び歌舞伎に戻ってきたので嬉しい。
  • 福助:十数年前は、一緒に修行。ヨーロッパ巡業などは同じ部屋で寝泊まり。そこでのことは、ここでは言えない。最後まで大入りが続くことを祈る。
  • 魁春:新錦之助は、子供の時、今では信じられないくらい、やんちゃだった。
  • 東蔵:春風駘蕩。ほんわかした感じ。
  • 梅玉:弟・魁春の言う通り、本当に子供の時は凄かった。今では随分爽やかになった。時蔵が兄として、色々世話をしていた。同じ兄として見習いたい。
  • 芝翫昭和11年11月、三代目歌右衛門の百年祭の話。
  • 吉右衛門:自分も二代目。代数が少ないのは、いかに初代が偉かったかということ。共に頑張ろう。
  • 勘三郎:もう他の人がみんな言ってしまったので、言うことなくなった。本人は、今すごく緊張してるだろう。襲名のプレッシャーは、自分がよく知っている。

先日、松竹永山会長が逝去したため、襲名時につきものの、「松竹永山会長の許しを得て」のフレーズはなかった。(富十郎が冒頭、泉下で永山会長も喜んでいるだろう、と述べた程度。錦之助自身が永山氏はともかく、松竹のことに全く触れなかったのは、今後の松竹と歌舞伎役者との関係を考える上で、ちょっと興味深い。)
角力場』夜の部の襲名狂言錦之助、与五郎はともかく、放駒長吉は、まだ線が細すぎる。
『魚屋宗五郎』勘三郎の宗五郎。時蔵勘太郎七之助、錦吾という組み合わせは、萬屋一門の襲名のため、いつもの中村屋の座組とは違った趣きとなった。破綻はないものの、面白味もない。黙阿弥の味も薄い。水準としては今ひとつ。その中では、時蔵のおはまが良かった。
 
丸一日はやはり疲れる。とはいえ、来月も新橋は通しで観るんだったなあ。やれやれ。
昼の部で、同じ会社の女性を見かけて、やや動揺。