11月歌舞伎座・昼の部

kenboutei2006-11-19

伽羅先代萩「竹の間」と「対決・刃傷」がつき、飯炊きがないとはいえ、一年に同じ劇場で2回も先代萩を観せられるのは、正直勘弁してほしかったのだが、この「竹の間」と、團十郎の仁木が無類の面白さだったので、今は得した気分。
菊五郎の政岡は、意外と柔らかな母性味があって、歌右衛門藤十郎のような烈女というイメージからは遠いものの、終始落ち着いて事を捌き、難しい政治状況をうまく切り抜けるだけの思慮深さも持ち合わせた政岡であった。
これに、もはや持ち役といっていい仁左衛門の八汐と、芝居の間をつかんでいる鶴千代役の子役(下田澪夏)が絡んで、「竹の間」は観客を全く飽きさせなかった。
「竹の間」に比べると、「御殿」は平凡。飯炊きがなかったせいもあるが、あっさり終わった感じ。(もっとも、栄御前が出てくる前までは、ほとんど寝ていたのだが。もしかして、飯炊きあった?)
菊五郎は、千松が殺され、栄御前を花道で見送り、ふっと笑みを浮かべるところは、極めて控え目で、乳人としての緊張感が持続しているところが良い。千松の死体を前に打掛を脱いで嘆くところは、義太夫味の薄い優だけに、音楽的な情感からくる感動は味わえなかった。
三津五郎が沖の井という意外な配役。決して加役ではない本格であった。秀調の松島、右之助の小槙もそれぞれ良い。
「床下」も充実。富十郎の男之助は、これまで自分が観たことのないような、男之助だった。動きといい、台詞といい、どこか古めかしく、そして若々しくはないが不思議な生気があって、今の富十郎の、この年齢でなければ決して表現できないような、唯一無比の男之助。前回観た時より格段に良かった。
スッポンから、團十郎の仁木弾正が登場。その目の凄みに圧倒された。久しぶりに観る、團十郎の目の凄みであった。引っ込みも、ふわふわした感じがあって良かったが、何よりも、花道を揚幕に向かって歩くにつれて大きくなっていく、定式幕に映し出される影の形が素晴らしかった。
この後の、「対決・刃傷」になると、仁木弾正はとたんに役が小さくなるのがいつもなのだが、團十郎の仁木は、そうならず、殺されるまで凄みのある、本当に大きな堂々たるものであった。夜の河内山とは大違い。
段四郎の外記も本役。この役も普通は弱々しくて、仁木の相手にはとてもなりそうにないと思わせることが多いのだが、段四郎は、深手を負っても筆頭家老の意地を持ち続けている手強さがあってよかった。そうでなければ、細川勝元が最後に舞いを舞わせるのは、いじめにしか見えない。
前後するが、幕開きの「花水橋」、福助の頼兼も、廓通いの放蕩する殿様の色気があって、良かった。絹川らの立ち回りを、後ろでただ眺めているだけの立ち姿が絵になっているのが、さすが。
『源太』『願人坊主』三津五郎。「源太」の方はほとんど寝ていた。「願人坊主」は、さすがの面白さ。身体に一本どっしりと芯があって、観ていても小気味良い踊り。