『平成の坂田藤十郎』

kenboutei2006-11-20

銀座ヤマハホールで、船津一監督の記録映画『平成の坂田藤十郎 大名跡に挑む、熱き魂の記録』を観る。歌舞伎座国立劇場にあったチラシで知り、東京上映は数回しかないことから、さぞ混むのだろうと上映時間の30分以上前に行ったら、全然余裕で当日券を買えた。ヤマハ楽器の前ではチラシを持って呼び込みをしている人もいた程で、結局その回は50人程度だったであろうか。
10年程前から当時の鴈治郎を撮り始め、藤十郎襲名を機にまとめたドキュメンタリー。
歌舞伎ファンとしては、舞台の映像もさることながら、その練習風景がふんだんに映し出されていたことが嬉しい。
右近、富十郎秀太郎團十郎玉三郎雀右衛門らと鴈治郎藤十郎)との、化粧をしていない素顔での絡みが、普段あまり見慣れていない分、非常に新鮮だった。
特に、秀太郎玉三郎などの女形が、素のままの演技でも、やはり女形に見えるところが凄い。(玉三郎は、素顔のままでも、何か妖しい魅力がある。)
舞台映像で、先年亡くなった坂東吉弥が頻繁に登場していたのも、今となっては懐かしくも悲しい。
團十郎初役で徳兵衛を勤めた「曾根崎心中」や、大阪松竹座開場時の鴈治郎の「三番叟」(この時の鴈治郎の動きは凄い。)など、自分の観ていない舞台の映像を観ることができた(ほんのわずかな時間だが)のも、収穫ではあった。
一方で、ドキュメンタリーとしてどうであったかというと、やや疑問は残る。つまり、そもそもこの藤十郎襲名について、記録映画として残すべき何かがあったのかということである。
藤十郎の今回の襲名は、正直言ってあまり必然性がなく、本人の思い入れの実現だけでしかなかったので、そこに辿り着くまでの過程を描こうとしても、ストーリーが見えにくい。
「上方和事」「近松」などをキーワードに展開させてはいたが、その追求は、ドキュメンタリーとしては深みが足りない。
藤十郎その人のドキュメンタリーとするなら、この襲名よりも、武智歌舞伎以来、もっと様々な話が作れたと思う。仮に襲名が実現せずにいたなら、10年間、5万フィートも使ったというフィルムは、別の編集がされていただろうし、そっちの方が面白くなったような気もする。
上映前にプロデューサーと監督の舞台挨拶もあり、アットホームな上映会ではあった。
それにしても、かつて見逃してしまった、伝説の十三代目仁左衛門のドキュメンタリーを観てみたいなあ。(DVD化は・・・無理だろうなあ。)