国立劇場『當世流小栗判官』通し

kenboutei2006-03-12

国立で、猿之助一門若手だけによる、「當世流小栗判官」の通し。一部、二部を続けて観る。
どういうわけか、一部は盛況、二部は、空席が目立った。一部では、ホスト風の男に若い女性というカップルが、自分の近くに二組もおり、少し異様な感じもあった。(そのうちの一組は途中で帰ったが)
平成12年に同じ国立で、鴈治郎富十郎宗十郎らの「小栗判官」があったことを、今度の公演のプログラムの中で気づき、確かに観ているはずなのだが、全く覚えていない。新橋演舞場での、猿之助スーパー歌舞伎『オグリ』は、かろうじて覚えている。(あれはいつだったかなあ)
ついでに言うと、平成9年7月歌舞伎座猿之助の方は観ておらず、猿之助十八番の『當世流小栗判官』は今回が初めてということになる。
全体的には、よくまとまっていて面白かったが、二部に分けるほどかなあ、とも思った。
一部では、「浪七住家」が一番面白い。右近の橋蔵が、ユーモラスでうまいものだが、これを昔は宗十郎がやっていたとはなあ。光渓の錦絵にも描かれ、自分も持っており、ああ、これがそうなのかと、ちょんまげのズラを見て膝を打った次第。助六の通人のような花道のサービスを、おそらくは嬉々として演じていたであろう宗十郎を、一度は生で観たかった。
右近は、他の役ではまさに猿之助のコピーだが、この橋蔵については、どこか勘三郎っぽい。
最後の「浜辺の場」での段治郎の立回りも新鮮。「俊寛」と「義賢最期」をミックスした感じ。
二部は、万福長者の「奥座敷の場」、笑三郎春猿が熱演。少し泣きすぎだったが、最後まで観客を惹き付けていたのは立派。
春猿の白無垢姿は極めて美しいが、かといって、九段目の小浪のイメージとは異なる。生身の女性の花嫁に近い。
笑三郎のお槙、安定感ではこの座組で一番。この役も、かつては宗十郎が演じていたのだなあ、と、いちいち宗十郎のことを思ってしまう。
スーパー歌舞伎で特に印象的だった、照手姫が小栗を車で曳いて行く場面は、道行だけであっさり。(この場の義太夫三味線が若干お粗末だった。)
笑也の照手は、一部二部通じて精彩に欠けるが、宙乗りだけは生き生きしていたように思う。
猿弥の大膳は、段四郎の国崩しの雰囲気を良く写している。
猿之助一門の若手の中では、右近、猿弥、笑三郎の芝居が頭一つ抜け出ていることが、今回の公演ではよくわかるが、上置きでもいいから、やはり一門以外の誰か他の役者を入れてほしかった。