『アメリカ、家族のいる風景』

kenboutei2006-02-27

またまたヴェンダースの新作。『ランド・オブ・プレンティ』から半年も経っていない。シネスイッチ銀座
酒、女、ギャンブル、薬と自堕落、破滅的な生活を送ってきた映画スターが、撮影中に失踪する。30年以上帰っていなかった故郷へ戻り、母親と再会。そこで、かつて共演した女優との間に自分の子供がいることを知らされ、その未だ見ぬ子供に会いに、古びた街を訪れる。
簡単に子供や母親に会えてしまうのは、やや作為的な気もするが、そこは、劇作家であるサム・シェパードならではとも言える。言いたいことを言うために、物語は作られていくのであろう。
冒頭、真っ暗な画面の中に、目をくりぬいたように浮かび上がる二つの青空。その乾いて澄み切った色が、『パリ、テキサス』の冒頭の青空を彷彿させる。音楽はライ・クーダーではないものの、ルーツ・ミュージックで彩られ、いかにもヴェンダース的である。
話のメインは、後半で巡り会う、元女優やその子供、やはり別の女性が産んでいた娘との絡みであるが、自分が一番印象に残ったのは、30年会わないでいた映画スターの母親との再会である。
造花を手にした母親は、引っ越した小さな家に息子を迎え入れるが、それほど感傷的になるわけでもなく、一通りの世話をした後は、さっさと自分の部屋に戻って野球観戦をしている。
日本人の目からは、何とも冷たい親子関係のようにも映るが、アメリカでホーム・ステイした経験からは、非常に良く理解できるシーンであった。自分もバークレイでのホスト・ファミリーは、こんな感じだった。(中南米系の別のホスト・フェミリーの時は全然違ったが)
子供に会いに行くため、母親と別れるシーンで、母親は「Don't be stranger.」と言って息子を送り出す。ここでの息子が、遠い田舎に高齢の親を残して、東京で自由勝手に暮らしている、今の自分とまるで重なって見えてきて、最後に母親から投げかけられたこの一言は、ひどく胸に突き刺さってしまった。
引き裂かれた家族が再会に向かうという意味で、これはもう一つの『パリ、テキサス』である。
映画スター(それも西部劇のスターだ)にサム・シェパード。映画スターとして振る舞っている時は、ひどくダサイが、一人の息子、一人の恋人、一人の父親の立場になってからは、無性にカッコイイ。さすがである。
元女優が、ジェシカ・ラングサム・シェパードとは私生活上でもパートナーとのことだが、ただのおばさんにしか見えなかった。(そういう役作りをしていた、ということか?)
娘役のサラ・ポーリーが非常に気に入った。
そして、シェパードの母親役が、何とエヴァ・マリー・セイント。何ともチャーミングなおばあちゃんになっていたが、あの『北北西に進路を取れ』の美貌の面影は感じられなかった。(実はエンド・クレジットが出るまで全く気づかなかった。)
カメラが前方にのみ焦点が合って、後方がピンぼけになっていたのは、多分意図的だとは思うのだが、個人的にはどうかと思う。
邦題も、もう少し気のきいたものにできなかっただろうか。
終業後に立ち寄ったのだが、観客はまばら。『ベルリン天使の詩』の頃の盛況を考えると、一抹の寂しさもある。