『その夜の妻』

kenboutei2005-04-02

小津安二郎、『その夜の妻』。昭和5年。サイレント。
開始早々、ピストルが出てくるので、声を出して驚いてしまった。後に作られた『非常線の女』に通じる、無国籍風「アパートもの」。
病気になった子供の治療のために強盗してしまった岡田時彦が帰る屋根裏部屋は、アメリカ映画のポスターや、モダンな置物が乱雑に散りばめられ、食事はテーブルで英字新聞に包まれた食パンとコーヒーという、明らかに西洋風。ところが妻の八雲恵美子の衣装は和服で、どこかアンバランス感は否めない。
初期の小津ではもはや当然ともいえる、移動撮影、ズームの使用も効果的で、サスペンスを盛り上げている。一方で刑事の山本冬郷と八雲の緊張感ある場面では、後期小津の「交わらない視線」のカット割りも見られ、なかなか興味深い。
岡田時彦は、岡田茉莉子の父だが、どことなく平田昭彦に似ている。子役の市村美津子が可愛くて、どこかで観たことあるなと思ったら、高峰秀子のことだった。山本冬郷がいい味を出していて、好きだ。(この人も最初、その顔つきから東野英治郎かと思ったのだが、全く別人だった。)