『晩菊』

kenboutei2009-08-04

神保町シアター、成瀬の『晩菊』。昭和29年作。
元芸者で、今は金貸しとなっている杉村春子が主演(!)。かつての芸者仲間にも金を貸しては集金時にイヤミを言う嫌われ役。昔好意を寄せていた上原謙が訪ねてきて、心が浮き立つものの、結局は金目当てだということがわかり、男など当てにならず、やはり金以外に頼るべきものはないと改めて悟るのであった。
杉村春子の芸者仲間に沢村貞子、細川ちか子、望月優子。他に加東大介、小泉博、見明凡太郎、沢村宗之助という、極めて地味な配役。望月優子の娘で有馬稲子も登場するが、あまり出番はない。
地味とはいえ、杉村、沢村、細川、望月の4女優の、熟達した演技を楽しめる、魅惑的な映画。特に、細川ちか子の気だるい雰囲気と、北海道へ就職していく息子・小泉博への母親としての複雑な愛情表現は、実に生活感溢れる生々しさがあって良かった。
望月優子もなかなかユニーク。モンロー歩きを見せるのがおかしかった。
奥行きある路地や裏庭を配した座敷の構図の他、杉村春子が細川や望月の悪口を言う場面の後に、その細川・望月のツーショットに切り替わるという場面転換のうまさも成瀬監督ならでは。
杉村春子が札束を数えている時、訪ねてきて挨拶しようとする加東大介には目もくれずに、「黙って!」と言って数え続ける場面が、杉村的であり成瀬的でもある。
その前の場面で、加東が杉村宅の玄関先で掃除しているお手伝いに話しかける時に、突然音が消えてジェスチャーだけになる。不思議な演出だと思っていると、実はお手伝いが聾唖であるための会話であったことがわかる、というのも印象に残る。
まあしかし、個人的にはもっと華やかなスターが登場する映画の方がいいかな。