『妻の心』

kenboutei2009-07-15

神保町。成瀬の『妻の心』。昭和31年作。
地方の老舗の薬屋が舞台。長男の千秋実は家を飛び出したため、次男夫婦の小林桂樹高峰秀子がその薬屋を継いでいる。二人は店の空き地に喫茶店を作る計画を立て、その金策や準備に奔走している。そんなところに失業した千秋実夫婦が戻って来て、金の無心。小林桂樹の芸者遊びや資金援助してくれた銀行員・三船敏郎高峰秀子との微妙な関係もあって、夫婦間には波風が立ち、喫茶店計画も危うくなっていく・・・。
『女の座』でも思ったことだが、何気ない日常の積み重ねを観ているのがとても心地良く、このまま延々と見続けていたいと思わせる。
この映画でも、千秋実の借金と失踪、小林桂樹の浮気疑惑、高峰秀子三船敏郎への思いなどが、物語のアクセントとなっていくわけだが、そんなことより、家の廊下を出入りする高峰秀子や三好栄子、坂道を歩く高峰秀子、各人の心が表れる視線の動きなどを観ていることこそが、最高に面白いのであった。
高峰秀子が喫茶店のために料理を練習する店の夫婦が、沢村貞子加東大介姉弟
三船敏郎高峰秀子が雨宿りに入った店で、会話が途切れた後の、お互いの気持ちの揺れを、巧みなカット割りと雨の描写で表す場面が、実に見事。