『フィメールトラブル』

kenboutei2007-12-08

先月の『ヘアスプレー』の流れで、次は『フィメールトラブル』を観ようと決めていたのだが、なかなか時間がとれず、ようやく今日、観ることができた。
とにかく、ディヴァインに圧倒される。
ワシントンの映画館で観た『ピンク・フラミンゴ』のディヴァインも確かに衝撃的ではあったのだが、この『フィメールトラブル』は、ドーン・ダベンポートという女性の一代記であり、ディヴァインはそのドーン役なので、ほぼ出ずっぱり、おまけにドーンを犯して妊娠させた男の役もやっており(強姦シーンを一人で演じていたのには笑ってしまった。)、ディヴァイン一色の映画と言っても良い。
そして、このドーン・ダベンポートが、何ともメチャクチャな人生なのである。映画は不良女子高生時代から始まるのだが、両親からのクリスマスプレゼントが、欲しかった靴と違っていたのにキレて家出し、ヒッチハイクの男(=ディヴァイン)に犯され、子供を産み、高校時代の仲間と盗みをして(盗む時は、忍者と黒衣を合わせたような格好となるので、おかしかった。)暮らすうちに、怪しげな美容院のモデルとなるが、最後は、自らエスカレートして銃を乱射、電気椅子で死刑になる。
一部はディヴァンの半生もモチーフとなっているとのことだが、まあ、これはディヴィンでなければ演じきれないだろう。
太った老婆のヌードや、男性性器の丸出し(もちろんモザイクが入るが)など、70年代アメリカの、そしてジョン・ウォーターズアナーキーさを十分に感じられたが、それでも何故か健全な雰囲気が漂っていたのは、ここに出演している人々が、どんなにフリークでトラッシー(という表現があるらしい)であっても、常に前向きに突き進んでいるからだろう。メチャクチャの行き着く先は、破滅であったりするわけだが、彼らは、最後がどうなるかなんて悩むことすらなく、全く躊躇を見せずに疾走するのである。そんな生き様は、もう21世紀の現代では、望めないことでもあり、70年代が初めて羨ましく思った。
ディヴァインのドーンは、周囲に煽てられながら、どんどん過激な行動をするようになり、顔に硫酸をかけられ醜い顔になっても、美しいと唆され、冷静な判断などできずにショーの主役となる。(トランポリンで一回転したり、生魚を口にするなど、まさにディヴァインのワンマンショーであった。)
老婆の腕を切断し、子供を絞め殺し、観客を銃殺しても、全く悪びれることなく、進んで電気椅子に向かって行く姿は、清々しくもあり、60年代後半からのアメリカン・ニューシネマを象徴する映画『明日に向かって撃て!』や、そのリスペクト映画(だと自分は思っている)『テルマ&ルイーズ』に通じるものを感じた。
観ているうちに、ディヴァインが非常に美しく見えてきて、少なくとも、出演している女優陣よりも一番女性らしかったのは間違いなく、この、悪趣味ではあるが優れた女性一代記映画の主役に相応しかった。
何しろ、硫酸でケロイド状態となった顔で、しかも丸坊主でノーメイクであっても、実に美しく見えたのだから、これは歌舞伎の女形と同じく、役者としての芸と色気があってこそである。(「芸」と打とうとして、最初に「ゲイ」と変換されたが、ディヴァインの場合、その表現の方が相応しいかも。)
ディヴァインは、怪優と呼ばれるだけではない、実力俳優であったことを、思い知った。オープニングの歌も、味わいがあった。
(『ヘアスプレー』の時にも書いたのだが、『オースティン・パワーズ』シリーズのマイク・マイヤーズは、間違いなくディヴァインにインスパイアされていると思う。刑務所に入ったディヴァインの丸坊主姿が、ドクター・イーブルそっくりであったことで、そう確信した。)
それにしても、こういう映画は、家ではなく、やはり映画館、それも場末の小屋で観るべきものだろう。(思えば『バスケット・ケース』を観た、札幌のシネマ23が一番相応しいが、もう20年以上前の話。『ピンク・フラミンゴ』を観た、ジョージ・タウンのキー劇場も良かったが、革ジャンのゲイのカップルしかいなかったのは、あまりにもはまり過ぎだったなあ。)

フィメール・トラブル [DVD]

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