国立劇場文楽五月公演

kenboutei2005-05-22

千秋楽。いつものように満員御礼の国立劇場小劇場。最近は和服の比率が高くなっているような気がするが、これも異常ブームの一現象か。
第一部
『盛綱陣屋』「上使の段」は英大夫、清友。床からすぐ近くで聴いていたが、久し振りに生で感じる三味線に心地よく浸かった。「陣屋」の切、十九大夫の語りが今まで自分が聴いた中では、一番良かった。この大夫は、声はいいのだが、べらべらとした感じでメリハリが薄く、聴いていても心に響いてこないのが常なのだが、今日は違った。時代物の迫力だけでなく、母微妙の語りにも情愛があり、第一部では最も聴きごたえがあった。
『冥途の飛脚』かなりうとうと。「淡路町の段」の羽織落しは進境著しい文字久大夫だったが、あまりうまくなかった。「往て退けうか、おいてくれうか」の「か」の使い方が物足りなく、忠兵衛を遣う玉男もさぞやりにくかったのではないか。
第二部
先代萩「御殿」の切、飯炊きは住大夫。歌舞伎でもそうだが、この飯炊きを面白いと思ったことがない。いつも退屈で眠くなってしまう。今日も同じ。千松や鶴喜代君と同様、聴いてる方も我慢の段だ。奥は咲大夫。有名な「後には一人政岡が」からのクドキ、CDのさわり集でよく聴く山城少掾や土佐大夫が耳に残っているので・・・(以下略)。「床下」はじめて観る。ねずみが人形ではなく、歌舞伎と同じく人間(黒衣?)が演じる。ねずみが変身する勘解由(歌舞伎では仁木弾正)は、黒の三段に乗って下からセリ上がってくる。勘解由の大笑いで幕。新大夫がなかなか頑張っていた。歌舞伎の影響をモロに受けた演出だが、それが逆に新鮮で面白かった。
桂川意外な傑作。ここ数年の文楽鑑賞でもベストの部類に入る。「六角堂」は、長吉を語った津国大夫が良い。頭の悪い洟垂れ丁稚は簡単そうで、案外難しいと思うが、津国はその雰囲気を自然に出していた。お絹の三輪大夫も、いつもは声の色に難があるのだが、今日は落ち着いた女房役で良かった。始大夫の儀兵衛もサマになっていた。
「帯屋」の切、嶋大夫が素晴らしかった。キンキンする声なので実はあまり好きではなかったのだが、今日は絶品だった。文楽に対しての褒め言葉としては相応しくないかもしれないが、「落語のような面白さ」。しかし、チャリとそれ以外の使い分けもうまく、なるほど切場語りとはこういうものなのだと納得。奥の千歳大夫は、嶋大夫に伍して立派。語りだけでぐいぐいと観客を惹き付けて行く。そして、清治の三味線。お半の書き置きを長右衛門が読む場面は、千歳の語りも凄かったが、それ以上に、清治の畳み掛けるような三味線の手に圧倒されっぱなしだった。久し振りに音曲としての義太夫が持つカタルシスを十二分に感じた。清治の三味線だけでも、今日は来た甲斐があった。
人形では勘十郎の儀兵衛がさすがにうまい。長吉を見て笑いこける場面は、かつて観た「笑い薬」の祐仙を思い出させた。玉女の長右衛門は意外な配役だが、だんだんこういう役もつくのだろう。文雀のお半、娘の人形を遣うのは久し振りに観たような気がする。簑助とは違った可愛らしさがある。その簑助も一部、二部両方に出演、順調に回復している模様。政岡に品格があった。
住大夫、玉男の存在感が薄くなる一方、中堅どころの大夫、人形遣いが充実しつつある感もあり、ブームの帰趨はともかく、文楽の将来は思っていたより暗いものではないかも、というのが千秋楽の個人的所感。