10月大阪松竹座 夜の部

kenboutei2013-10-26

『夏祭浪花鑑』
愛之助の団七による上方演出との触れ込みだったが、「鳥居前」の衣装も首抜き、「三婦内」も一杯道具と、いつもの東京バージョンとあまり変わるところなく、どこが上方演出なのか、わからなかった。ただ、初めて観る「道具屋」や、頻繁にはやらない「田島町」が割合面白かったので、それなりに楽しめた。
愛之助の団七は以前も観ているものの、あまり記憶に残っていなかった。今回はすっかり安定した印象。何の不安もなく観られるということは、実は凄いことだと思う。これで仁左衛門ばりの凄みと愛嬌が加われば、確かに松嶋屋の後継者と言えるのかもしれない。
翫雀の釣舟三婦は初役か。老人には見えなかったが、独特な気骨あるキャラ、上方の雰囲気もあってなかなか面白かった。
その翫雀の面白さで、「田島町」が良い出来。
一方、初めて観る「道具屋」は、猿弥の番頭伝八がおかし味を出して笑わせるが、芝居としてはそれほど面白い場ではなかった。
猿弥は、煙管の前後を間違えて咥えてしまい、火傷。わざとかと思ったが、本当に熱がっていた。
亀鶴の徳兵衛がしっかりとしていて良い。
壱太郎のお梶は、まだ無理。女房役に見せようと、無理に肩を落としてしどけなくしているのが、女房ではなく女郎っぽく見える。
座組の問題とはいえ、薪車の磯之丞も気の毒。右近の琴浦とも釣り合わず。
上村吉弥のお辰が貫録の芝居で感心。
義平次は橘三郎。

10月歌舞伎座 夜の部

kenboutei2013-10-14

『木の実・小金吾討死』
『すし屋』
仁左衛門の権太、秀太郎の小せん、梅枝の小金吾、東蔵の若葉の内侍、歌六の弥左衛門、孝太郎のお里、竹三郎のお米。時蔵の維盛、我当の梶原。
仁左衛門は右肩の腱板断裂で来月からしばらく休演。今も右腕はほとんど使えない状態で出演している。木の実を拾って投げたり、床几を片付けるのも全て左手のみで、その不自由さは観客席からも容易に察せられた。しかし、そうしたハンディがあっても、決して不自然に見えないのが仁左衛門の芸の力でもある。悪事を働く時の凄みとキレ、子供や妻、母親に接する時の愛嬌とぬくもり。こんなに魅力的な権太は、他にいない。母親の膝に顔をうずめる程甘え、妻子を身代わりに差し出す時の、涙をこらえての仕草、腹を切られて述懐中に、弥左衛門の肩や腕にすがりつく、その切なさなど、仁左衛門独特の権太。音羽屋系のすっきりとした権太像とは異なる、上方の匂いのする、リアルで魅力的な男の造形であった。(「小金吾討死」で、小金吾を足で止める型が裏向きになるのは、右肩をかばってのものかと思ったが、以前からそうしていたとの話を聞いた。)
秀太郎の小せんも、可愛らしい色気があって良かった。松島屋兄弟でのやりとりはとても楽しい。孝太郎のお里も安定。
梅枝の小金吾は、前髪姿は良いものの、立ち回りが時折映画のチャンバラ風になるのが良くない。顔立ちが古風なのに動きが現代的過ぎる。
時蔵の維盛は、女形としての仕草が残り、なよなよ。

『四の切』
菊五郎の狐忠信。70歳を超えての「四の切」は、前例があるのだろうか。
狐になってからの動きが厳しいのは是非もないが、しかし、子狐としての情感は十分。前半の忠信は、そこにいるだけで存在感があり、立派。だんだん背中が曲がってきてるのが、少し悲しいが。
静は時蔵で、これも本役。
彦三郎の川連法眼と秀調の飛鳥のやりとりがなかなか良く、ただの埃鎮めに終わらない存在感があった。
梅玉義経

久しぶりの「千本桜」の通しだが、夜の部終了は午後8時40分。ところどころ、いつもの演出からのカット、省略があった。あまりこれが定着してほしくない。

10月歌舞伎座・昼の部

kenboutei2013-10-13

今月は昼夜で義経千本桜』の通し。菊五郎劇団、吉右衛門一座、藤十郎仁左衛門梅玉等勢揃い。それぞれの持ち役を分担しているので、通し狂言としての統一性は薄いけれど、各幕充実の舞台で、現代歌舞伎の一つの水準を示していたと思う。
『鳥居前』松緑の忠信、梅枝の静、亀三郎の弁慶、菊之助義経。若手中心で気持ち良いが、完成度は今一つ。梅枝の静にしろ、亀三郎の弁慶にしろ、花道の出でそれらしい雰囲気になっていない。共に期待している役者なだけに残念。一方、松緑の忠信は、花道引っ込みはまずまず。菊之助義経が一番安定。ただ、義経のニンではないと思う。亀寿の笹目忠太。
歌昇、隼人、米吉、種之助で四天王。自分も年を取るわけだ。
『渡海屋・大物浦』吉右衛門の知盛、芝雀典侍の局、歌六の弁慶、梅玉義経又五郎の相模五郎、錦之助の入江丹蔵。
さすがの吉右衛門。今までに比べて特筆すべきものは感じられなかったが、スケールの大きさ、力強さは観る者を圧倒させる。知盛となってから、源平の争いと平家の没落について述懐する台詞の良さが吉右衛門の魅力。最後の入水も立派で言うことなし。
梅玉義経が本役、芝雀典侍の局も良い。
本格の『渡海屋・大物浦」であった。
吉野山菊五郎の忠信、藤十郎の静。このコンビは初めてとのこと。それほど期待していなかったのだが、何とも言えない味わいがあって、思わずのめり込んで観ていた。既に両優、高齢で動きにキレはないけれど、その佇まいと、共に義経を思う情感が身体中から滲み出ているのが、良かった。屋島の戦物語も踊りというよりむしろ芝居っ気のある振りで、とても面白かった。ただただ二人が動くのをいつまでも観ていたいと思った。
團蔵の逸見藤太も飄逸で、この二人に負けない存在感を出していた。(亀三郎の笹目忠太との差は歴然。)

10月国立劇場

kenboutei2013-10-06

無人幸四郎一座。当日券二階最前列ど真ん中で観る。
『一谷嫩軍記』
「陣門」、「組討」は、退屈でうとうと。染五郎の小次郎は、花道の出から精彩を欠く。すっきりとせず、野暮ったい。台詞の調子も悪い。ニンに合う役かと思っていたが、期待外れ。
笑也が玉織姫だが印象薄い。錦吾の平山武者所
「熊谷陣屋」、いつもの幸四郎芝居。最初の七三の思い入れはまずまず。制札の読みは首を上下に大げさ過ぎ、木戸の外側で草履を脱ぎ、相模を見て顔をブルブルさせ袴をポン。
二重に上がっての熊谷の立ち位置が前過ぎる。また、物語の後、藤の方との間にに置かれていた二本の刀を後見が熊谷の手元までずらしていたのが、目障りだった。いつもこうだっただろうか?
魁春の相模、打掛を脱ぐ所作が雑。
藤の方は高麗蔵で硬い。義経を友右衛門が初役で務めるが、台詞に詰まる場面もあった。
左団次の弥陀六は本役だが、この座組では不釣り合いだった。
二階から見ると役者の居所などがわかりやすく、新鮮であった。

『春興鏡獅子』
染五郎5年前の初役以来の「鏡獅子」か。
弥生は腰の入れ方が浅く、ふわっと軽い感じがする。獅子は迫力不足。金太郎、團子の胡蝶に観客が注目するのもむべなるかな。團子が海老反りの姿勢の時、上半身を支えきれず、倒れてしまった。金太郎の方に一日の長か。
毛振りの時の、所作台が正面向きでなく、やや斜めに位置しており、幕切れの染五郎も観客に正対していなかったのが、気になった。

9月歌舞伎座昼・夜

kenboutei2013-09-22

若手花形が昼夜奮闘。
昼の部
『新薄雪物語』
この座組では到底無理と思っていたのだが、熱演により傑作となった。杮落とし公演における収穫の一つ。
特に松緑菊之助染五郎での「合腹」が素晴らしかった。吉右衛門、芝翫、幸四郎らのような芸の深みを堪能するほどまではもちろんいかないが、子供のために親が犠牲になる、そのドラマを若手がしっかり演じたことに感動。観客が水を打ったように静かになり、息を潜めて三人の笑いに集中している。この静かなる熱気を生み出したのも、三人の真剣な演技によるもの。
染五郎の園部兵衛は、幸崎伊賀守からの刀についた血を見るところが良かった。
松緑の伊賀守は、花道七三での芝居はまだ硬いが、その必至さに伝わるものがある。
菊之助の梅の方は、三人の中ではもっとも安定感があった。笑いについても、丁寧でかつ不自然さを極力排し、いつもこの場で起こりがちな観客からの失笑を拒絶する力があった。
前回の吉・芝・幸の「合腹」も素晴らしかったが、今回の松・菊・染も、自分にとっては後々まで語りたい一幕となった。
もっとも、「合腹」の前までは、それほど面白くなかった。むしろ退屈。
期待していた海老蔵の秋月大善は平凡。声量がいつもより小さく、迫力に欠けた。二役の葛城民部の方が捌き役として、海老蔵らしさがあったが、この「詮議」の場は、大善の弟として秋月大学が登場し、大善と被るので、そのまま海老蔵が大善に出ていても良かったように思う。(大学は亀蔵で、これはまずまずだった。)
勘九郎の園部左衛門、梅枝の薄雪姫のカップルは一通り。七之助の腰元籬は、少し砕けすぎ。
愛之助の奴妻平と亀三郎の団九郎は安定。
「花見」での奴との立ち回り、傘の濃紫色が不統一。ブレイクダンス風の動きにも違和感があった。
それにしても、若手でこの難芝居を持たせたのは大手柄。
 
追い出しに、勘九郎七之助『吉原雀』

夜の部
陰陽師
夢枕獏の新作歌舞伎。終始会場が暗いので疲れた。昔のスーパー歌舞伎ではこんなことはなかったのだが。
染五郎陰陽師安倍晴明。その相棒で笛の名手源博雅勘九郎。国家転覆を企む平将門海老蔵。将門を陰で操る興世王愛之助。将門の友人だったが、後に将門退治に向かう俵藤太に松緑。その藤太と両想いだったが、結局将門の妻となり死んでいく桔梗の前が七之助。その遺児の娘滝夜叉姫が菊之助。(配役の紹介でおおよそのストーリーもなぞることができる。)
菊之助の滝夜叉姫が化け物に囲まれながら登場するシーンは、玉三郎の『海人別荘』を彷彿。他にも花四天をうまく使った巨大ムカデなど、歌舞伎の演出を巧みに利用したエンターテインメントに仕上がっている。
ただ、時間軸を行きつ戻りつの構成は少し煩わしい。海老蔵の将門が人肉を食う場面もグロテスク。将門側と陰陽師側で揺らぐ滝夜叉姫の立ち位置が不安定でわかりにくい。
初心者と一緒に観劇しても楽しめる歌舞伎。

9月新橋演舞場・昼の部

kenboutei2013-09-16

『御浜御殿』
三津五郎休演により、橋之助の綱豊卿、翫雀富森助右衛門
橋之助は、甲の声が一本調子で不自然。けっして下手ではないが、聞いていて陶酔できるトーンではない。ニンではないと思った。
翫雀も平凡。
壱太郎のお喜世、魁春の江島、我当の新井白石
やはり三津五郎の綱豊卿を観たかった。
『男女道成寺
橋之助、孝太郎。
長唄常磐津との掛け合い。狂言師の時に常磐津が入る趣向(と、思う)。
橋之助の踊りはそれほど面白くないが、当て振りはわかりやすい。
孝太郎の花子は初めて観る。丁寧な踊りに感心。
道成寺モノではあるが、「男女道成寺」だと、鐘への恨みがわかりにくい。特に狂言師の方は全く執着がない。孝太郎は、顔つきは相当恨みを抱いている表情だったが、何に恨んでいるかが不明だ。
『河内山』
いつもの幸四郎。啖呵が啖呵にならず、爽快感に乏しい。
北村大膳は錦吾で、「大男、〜」ではない方で揶揄われる。
それにしても幸四郎、昼も夜も坊主役とは。

新橋演舞場9月・夜の部

kenboutei2013-09-15

『不知火検校』
幸四郎。案外と面白かった。
幸四郎の富の市、腹の底からの悪。ぴったり。不知火検校になってからが特に良かった。やはり幸四郎は新作向きの人。もっとも、宇野信夫の言うところの、「善人そうに見えるが実は悪」という意味での魅力はない。善人さや表面上の憎めなさは見えず、ただの悪だけの芝居に終始。
魁春橋之助翫雀、孝太郎、左団次、弥十郎、壱太郎、巳之助と、役者も適度に揃う。
 
『馬盗人』
三津五郎休演により橋之助の六兵衛、翫雀の悪太、巳之助のすね三。主役は、馬。三津五郎の踊りが見たかった。