五月明治座花形歌舞伎 昼夜

kenboutei2013-05-06

昼の部
『実盛物語』勘九郎の実盛は、大阪で一度やっているようだが、東京では初見。期待していたが、それほど良いとは思わなかった。特に最初の花道からの出が、予想していたより華やかさに欠け、その後の自分の印象を引きずった。どこといっておかしいところがあるわけではないが、物足りない感じ。その理由が何なのか、観ながらずっと考えていたが、よくわからなかった。途中ウトウトきたりしていたので、自分の体調のせいかもしれない。声がますます勘三郎に似てきたなあ、というのが、一番印象に残っている。
七之助の小万、錦吾の九郎助、吉弥の小よし、高麗蔵の葵御前。
亀蔵の瀬尾。顔が上方の役者絵の雰囲気で面白い。兄・市蔵とはひと味違う瀬尾像。
『与話情浮名横櫛』
染五郎の与三郎、七之助のお富。
「見染」、「赤間別荘」は平凡。染五郎の与三郎は、江戸和事ではなく、上方和事。なよなよし過ぎ。七之助のお富も、線が細く冷たい印象。眉のない顔は、爬虫類か南極のペンギンみたい。
亀蔵赤間の親分は、重厚感に乏しい。
「玄冶店妾宅」は結構面白かった。特に染五郎が前の二場と違って、独特の与三郎像を見せてくれた。少し大袈裟かもしれないが、どこか死の匂いを感じさせる与三郎であった。染五郎からそうしたイメージを想起するのは初めてのことで、意外でもあった。
対する七之助のお富も、この場は染五郎とよく合っていた。婀娜な感じまではないものの、前の二場よりは良い。
蝙蝠安に亀鶴。愛嬌の作り方が独特で今風な感じもするが、これはこれで面白かった。
愛之助の多左衛門は意外だが、そつなくこなす。
山左衛門の藤八は、硬さが目立ち面白みに欠けた。

夜の部
『将軍江戸を去る』染五郎慶喜勘九郎の山岡鉄太郎、愛之助の伊勢守。
昨年の中車襲名の時より面白く観ることができたのは、この3人のアンサンブルが良かったからだろう。筋書の上演記録を見ると3人とも初役か。一生懸命なだけでなく、台詞の意味をしっかり捉えて言おうとしている意思も感じ取られた。しかし真山青果の台詞劇の面白さがあったかというと、それにはまだ遠い。
『藤娘』七之助。この踊りは、ぽっちゃりした六代目がその体型を意識して舞台装置も大きめに工夫して作り上げたもの。そういう意味では、ぽっちゃりした役者で観た方が面白いのかもしれない。細身の七之助で観ていて、そういう感想しか出てこない。
『鯉つかみ』まだ観たことのない芝居だったので楽しみだったのだが、たいしたことはなかった。鯉の着ぐるみと愛之助の水遊び。鯉がスッポンから尾びれを動かしながら吊り上がっていき、中から愛之助が出て来たところは新鮮だったが。
ずぶ濡れになった愛之助が六法を踏みながら花道を引っ込んで幕となるが、ここで先月の歌舞伎座勧進帳』同様、手拍子が発生。ケレンの芝居とはいえ、六法での引っ込みに手拍子が定番となるような気がして憂鬱になった。