12月国立劇場 吉右衛門の鬼一・大蔵卿

kenboutei2012-12-23

12月の国立は『鬼一法眼三略巻』の通し。吉右衛門が鬼一と大蔵卿の二役を演じる、魅力ある企画。
鬼一の方は初役。初代の台本の通りにやると筋書きにあったが、なるほど、登場がいつもの花道ではなく、上手から出てきて、新鮮。
圧倒的な存在感で、これまで自分の中の鬼一のベストは、ビデオで観た羽左衛門であったが、それを凌駕。(生で羽左衛門を観ていたら、また違った印象を持ったかもしれないが。)
決して老成した鬼一ではなく、肚に源氏復興を秘めた強い意思を感じさせる、目の鋭さが印象的。
「晴れの草履」のところは、右手を大きく振りかざす。これは九代目の型だと聴いたことがあるが、おそらく初代もそうだったのだろう。この辺りの台詞は実に面白かった。
鬼一に比べ、定評ある大蔵卿は、案外平凡。しかし、決して作り阿呆を中村屋のように極端にすることなく、鬼一同様、肚はしっかり押さえた芝居。
梅玉も虎蔵と鬼次郎の二役。虎蔵は梅玉の持ち役だそうだが、自分が観た限り、あまり面白くなかった。花道での振りが全然竹本に乗っておらず、実に平板。その後のノリ地も、本当にノリ地なのかわからない程、普通であった。一方、鬼次郎の方は、最近力強さが出てきた梅玉に似合って良かった。
智恵内に又五郎、お京は東蔵
歌江が腰元役で元気に舞台に立つ。
最初に珍しく「清盛館」がつく。後の「菊畑」で皆鶴姫を残して虎蔵が先に戻って杖折檻される経緯や、湛海の皆鶴姫への恋慕が描かれているので、全体の筋の理解には役立って良かったが、どうせ通しでやるなら、「菊畑」の後の「奥庭」も観せてほしかった。
清盛は歌六。湛海役の歌昇が奮闘。
芝雀の皆鶴姫は、雀右衛門を彷彿させる濃厚さがあって良かった。
魁春常盤御前は、座っているだけで気品を感じさせたのは立派であった。
 
いずれ新しい歌舞伎座でも再演してほしいと思わせる、国立劇場の良い仕事。