新橋演舞場 秀山祭 夜の部

kenboutei2010-09-19

秀山祭、夜の部を観る。一階の結構良い席でも空席が目立った。
『猩々』梅玉松緑の猩々に芝雀の酒売り。梅玉松緑の猩々は、ゆったりとした感じの動き。あまり酒好きの動物には見えなかった。
俊寛吉右衛門俊寛福助の千鳥、染五郎の少将、歌昇の康頼、段四郎の瀬尾。仁左衛門が丹左衛門でつきあう。
吉右衛門俊寛は、全体としては前に歌舞伎座で観た時の方が、自分は好きだが、出色だったのは、「思い切っても凡夫心」のところ。床の言葉通り、島に残ることを決心したものの、未練止み難く、つい激しい感情が露出して「おーい!」となる、一連の心の葛藤とそれに付随する身体の動きが、とても良かった。
福助の千鳥は、最初に出てくる時、花道七三から後ろ向きでガニマタで歩く。こんなこと、以前からやっていただろうか。
段四郎の瀬尾は手に入った役で、安心。染五郎歌昇も無難。仁左衛門の丹左衛門が爽やか。
『鐘ヶ岬/うかれ坊主』芝翫の『鐘ヶ岬』。最近の芝翫の舞踊は、年齢と体力を考慮してのものばかりで、『鐘ヶ岬』もそういう意味での選択だろうし、それほど期待はしていなかったのだが、その芝翫のあまり大きくない動きに、いつの間にか引き込まれていた。純粋な地唄舞を、歌舞伎の舞台で披露してくれていると考えると、他の観客のことも忘れ、舞台の芝翫と自分だけの世界になり、とても贅沢で濃密な空間と時間になったのであった。
次の富十郎の『うかれ坊主』も面白かった。まぜこぜ踊りで、五段目の定九郎や与市兵衛になったり、「娘が化粧すりゃ、狐が覗く」という詞章(←不正確)に合わせて、狐になったりする、その富十郎のあて振りが見事で、『うかれ坊主』にこういう振りがあったのか、と初めて知ったくらいに、わかりやすかった。(今まで何を観てたんだか。)
『引窓』染五郎の与兵衛、松緑の濡髪、孝太郎のお早、東蔵のお幸。染五郎の与兵衛は、吉右衛門に教わったとのことで、しっかりと楷書の芝居となっていた。また、七月には大阪で仁左衛門の与兵衛に濡髪で出ていたことも、良い影響があったのではないかと思う。(型は仁左衛門とは違っていたが。)
松緑の濡髪は、重みが足りない。正面に座する時、身体がやや上手寄りに向くのも、客としては落ち着かない。
東蔵のお幸は、やることにソツはないが、少し手強過ぎる感じがした。
孝太郎のお早は、七月の松竹座より、同世代で演じるこの座組の方がフィットしていた。