『宮城野』

kenboutei2010-07-28

横浜みなとみらいの、ブリリアショートショートシアターなるところで、『宮城野』を観る。
以前、浮世絵に関連して、教えてもらった映画だが、上映機会が限られているようで、なかなか観れないでいたもの。たまたまネットで今回の特集(出演している若手女優、佐津川愛美の特集らしい。)を知り、無理して久しぶりに横浜まで出向いた。(みなとみらい線にも初めて乗った。)
映画は、矢代静一の戯曲に基づいたものであり、主演の宮城野を演じた毬谷友子はその矢代静一の娘であったことは、観終わった後に知る。(彼女が女優山本和子の娘であることは、『女の園』で知ったばかりだったが。)
写楽の弟子と吉原の女郎の色恋に、写楽殺しが絡む。
元の戯曲が二人芝居のせいか、登場人物もわずか五人。
弟子が片岡愛之助、遊女宮城野が毬谷友子写楽(とおぼしき男、とのクレジットだったが)に國村隼、その孫娘に佐津川愛美、遣り手婆が樹木希林
冒頭は、この五人が歌舞伎風のだんまりを見せる。女優の見得は、やはり違和感があった。
が、それよりも、もっと違和感があったのは、映画の進行中、時折背景に浮世絵を使っているのだが、その絵が誰にでもわかる広重風であったこと。
写楽は寛政期の人で、一方、広重は化政期から幕末にかけて活躍しているので、時代的には交わらない。写楽の話の背景に、広重が出てくるだけで、もう、この映画への興味が半分以上薄らいでしまった。これでは、近松の戯曲を黙阿弥の七五調で演出するようなものだ。
中川信夫の『東海道四谷怪談』でも、冒頭の音響に女義を使うなど、映画の場合、「雰囲気が出たらそれでいいのだ」的発想で、時代考証を無視する例は多分にあるし、演出の都合によっては、それは許されるとも思うが、浮世絵絡みでこの映画を観にきた自分にとっては、この間違い(と、言い切りたい)は、受け入れ難かった。
映画の内容の方も、宮城野の毬谷友子一人だけ、妙に力の入った芝居で、上半身のヌードも見せてくれる程なのだが、その熱演は、限りなく舞台的、それも現代劇的な所作、台詞であり、一方の愛之助が、歌舞伎出身者らしく、時代劇的芝居をしているのと、全く合っていなかった。(逆に言えば、愛之助だけが時代劇だったともいえるのだが、この映画は、江戸の物語だしねえ。)
黒衣を出したり、極めてシンプルなセットなどは、予算の関係もあるのだろうが、篠田正浩の『心中天網島』を思い出させる。処刑された宮城野を俯瞰で撮るラストシーンも、おそらくは、そのオマージュであろう。(岩下志麻吉右衛門の死体は、蓙の上にあったが、毬谷友子の死体は、蓙の下で隠される。)
今回の上映特集対象者でもあった佐津川愛美は、全く知らなかったが、特集になるくらいだから、結構有望な若手女優さんなのだろう。正面から見ると可愛いが、横顔に起伏がほとんどなく、残念。
その他にも、いろいろ残念な、映画であった。
ブリリアショートショートシアターは、その名の通り、短編映画の専門館。ロビーが割合に広く、そこで食事の注文もできる、居心地の良い映画館。予告編で紹介された、各国の短編映画も面白そうだったが、いかんせん、東京から行くのは面倒だ。(昔は、もっと遠くから東京に通っていたのだが。)
六代目国政が描いた、映画の中でも使われていた宮城野の浮世絵の、薔薇の匂いがするアロマ・カードを買って帰る。