星新一展

kenboutei2010-06-12

世田谷文学館で開催中の、『星新一展』を観に行く。
パンフレットには、特別協力者として最相葉月の名前もあり、実際、今回の展示は、もはや星新一の伝記として唯一無二の感ある、彼女の本に基づいて構成されているようであった。
最初のブースには、星新一の幼少の頃の作文や絵が展示されている。戦前の昭和初期の子供の絵が、綺麗に保存されているところに、星家の星家たるものを感じた。また、親一少年の描く絵が、結構うまいことにも、新鮮な驚きがあった。(後にホシヅルを描く人の作とは思えなかった。)
巨人阪神戦での沢村のノーヒットノーランの記事のスクラップや、旅行記を手製の冊子にまとめていたり、几帳面な性格の一端も伺える。
次のブースは、父・星一に関する展示。星一アメリカへ出発する際の、横浜港での見送りがフィルムに残されているのだが、実に壮観。出発前には東京で盛大な壮行式も開かれ、時の大臣達がずらりと並んで挨拶している。東京駅から横浜港までの移動も、大勢を引き連れた大名行列。小学生の親一少年も、可愛い制服制帽で映っていた。そもそも、こんな映像を記録していること自体が凄い。
更に、星製薬の薬の陳列も。胃腸薬の赤い缶や「くすりはホシ」という看板を見ていると、当時の星製薬の勢いをリアルに感じることができた。
星新一の展覧会ではあるが、自分としては、彼の作品形成にも大きな影響を及ぼしていた(それは、最相葉月の伝記によって教えられたのだが)、父・星一の業績についてのこの一連の展示が、最も興味深いものであった。
もう一つ、面白い展示は、星新一のショート・ショートの下書きと創作メモ。原稿用紙の裏紙やメモ用紙の切れ端などに、小さい字でびっしりと書かれた、下書きやアイデア。一見すると紙屑にしか見えないそれら紙片を、一山にして、壁に埋め込んだ半円球の透明カプセルに入れて展示していた。来訪者は、用意されている虫眼鏡で、そのメモの文字を読み取るという趣向。
とにかく、星新一の書く文字は、小さい。行間の隙間もなく、紙の余白がなくなる程、細かい字で埋め尽くされ、読み取るには、本当に虫眼鏡が必要である。また、縦書きの字のラインが、若干右に傾く癖があることも、今回発見した。
他に、星新一の本のカバーを多く手がけた、真鍋博和田誠のイラストの展示も楽しかった。特に、真鍋博の細密なデザインは、星新一の手書きの細密性に通じるものがあるのだなあと、今回の展示を通じて、改めて感じ入った次第。
講演会の録音の一部も聞けた。異質なものを結びつけてストーリーを作るという、お馴染みの創作術を話しており、「ロケット」と「狐憑き」で、ショートストーリーを紹介し、この話は、講演会用にとっておいて、まだ発表しないでいる、というオチもついていた。
ボッコちゃんのいるバーのブースがあったり、星新一が原案で、NHKで放映された『宇宙船シリカ』の最終回の一部も上映されていて、それほど広くないスペースをうまく使って、星新一の業績を魅力的に紹介している、楽しい展覧会であった。
帰りに、限定発売のホシヅル・ストラップを買おうとしたが、売り切れ。本当は、このストラップ入手が最大の目的でもあったのだが・・・。(→結局、再入荷を待って、翌週にゲットした。)