『第9地区』

kenboutei2010-05-06

有楽町マリオンで、『第9地区』を観る。
南アフリカヨハネスブルクに宇宙船が飛来、中には宇宙人がおり、彼らと慎重に接触するため、その地域を隔離して「第9地区」とする・・・。映画の予告編でのあらましは、そんな感じで、これをドキュメンタリー・タッチで描き、遭遇する宇宙人の姿は、念入りにモザイクがかけられている。
ピーター・ジャクソンがプロデュースし、低予算ながら大ヒットし、一種の「掘り出し物」的評判の良さにも惹かれて、観に行った。
予告編から想像していたのは、SFでいうファースト・コンタクトもので、未知のエイリアンとの遭遇を、かなり現実的なシチュエーションで捉えたような物語。同じファースト・コンタクトでも、スピルバーグの『未知との遭遇』のようなファンタジックなものではなく、よりリアルなハードSFを期待していたのである。(例えば、実際に宇宙で未知の宇宙船に出会ったら、お互いに相手を警戒し、襲撃の可能性を怖れて母星にも連絡をとれず、いつまでもその場でじっとしている、というSF小説があるのだが、そんなシチュエーション・ドラマを期待していた。)
ところが、映画が始まると、予告編ではミステリアスだったエイリアンは、宇宙船の中で群れをなして弱っている状態として現れ、すぐに地球上で収容される「難民」として扱われてしまった。
宇宙人への科学的興味など端からなく、現実の人間社会にある、人種差別や難民問題のメタファーとしてしか取り扱われていなかった。難民宇宙人は増え過ぎて、今の地区では手狭になったため、別の場所へ移転させることとし、そのため役人が宇宙人に許諾の署名を取りに個別訪問までしている始末である。
それはそれで面白い趣向であるとは思うが、自分の興味の方向性とは完全にズレてしまったため、期待が高かった分、失望も小さくなかった。
後半は、エイリアン主人公と地球人主人公の脱出劇という、お決まりのハリウッドコードに収まっていたし、まあ、『アバター』よりはマシか、といった程度の映画であった。
殺戮場面のグロテスクさなども、自分の趣味には合わなかった。(エビ宇宙人の造形が、仮面ライダー風だったのは、わりと好きであったが。)
地球人の主人公が、極めて普通の人であったのは、良かったと思う。(もっとも、後半はマッチョになるのだが。)
それにしても、もっと面白く料理できるテーマなのになあ。ここまで凡庸な筋の運びにしてしまうとは、予想外であった。
予告編で勝手に想像を膨らませてはいけない、という教訓としよう。
続編を匂わす終わり方であったが、次は派手なドンパチ映画にしかならないような気がする。(マイナスの想像も膨らませてはいけないか。)