高橋誠一郎コレクション

kenboutei2009-11-23

三井記念美術館で開催されていた、高橋誠一郎浮世絵コレクション名品展「夢と追憶の江戸」
慶応義塾創立150年記念事業の一環で、9月から開催、前期・中期・後期と3回に分け、全て入れ替え展示という強気の企画であるが、個人の浮世絵コレクションとしては、世界でも質の高い貴重なものということを聞いて、3回とも足を運んだ。また、慶応大学で行われた高橋誠一郎に関する講演会も、「演劇人としての高橋誠一郎」(渡辺保)の回は、聴きに行った。(おかげで後期の展示は、ここでもらった招待券で観ることができた。)
この展示会があるまで、恥ずかしながら高橋誠一郎のことは何も知らなかったのだが、慶応大学の塾長代理をはじめ、文部大臣、芸術院長、国立劇場会長などを歴任し、更には映倫の初代委員長まで務めている、著名な経済学者なのだった。学者としては、重商主義の研究で世界的にも著名らしい。(自分、経済学部出身なのにね。)
まあ、そんなコレクターの経歴はともかく、3回の展示は、どの回も基本的には時代順に展示され、浮世絵の変遷がわかるという趣向。それぞれ結構な展示数であり、こういう企画が成り立つだけのコレクションがあるというのは、凄いものだ。(この他に春画も相当集めていたという。)
師宣からはじまり、春信、春章、清長、歌麿写楽、豊国、国貞、国芳北斎、広重、芳年、清親と、浮世絵黎明期から新版画まで、万遍なく揃っているのも驚き。
更に、肉筆画も充実。これだけ集めるのに、どれだけの資金が必要だったのだろうか。
加えて、保存状態も結構良い。菱川師宣の、色がこれほど残っている絵を観るのは、あまり記憶がない。

鈴木春信の絵も、色だけでなく、空摺りの凹凸がしっかり確認できて、観ていて嬉しくなる。(昔、千葉美術館で観た春信展にも、結構高橋コレクションが入っていたようだ。)
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個人的には、歌麿の一連の美人画に惹かれる。昔は歌麿には全く興味がなかったのだが、最近はその猥雑な卑近美に惹かれつつある。やりすぎ感がある程の髪の毛の描写(これはむしろ彫り師の力量だろうが)も、いつ観ても飽きることがない。歌麿描く寛政の三美人の区別もようやくできるようになった(と思う)。

(↑これは、難波屋おきた!)
また、後期に展示されていた、広重の『狐火』がとても印象的。星空の下、巨大な榎の木の下に、白い狐が集まっている。遠くの方にも数多の狐が浮かんでいるという、幻想的な絵。名所江戸百景シリーズにこんなメルヘン・ファンタジックな一作があったとは、知らなかった。

肉筆画では、芳年の『墨染桜』が儚気で好きだ。
中期の展示にあった、豊国の肉筆画の『三囲社頭の中村芝翫と芸妓』で描かれている芝翫は三代目歌右衛門のことだと思うが、最初観た時は、七代目團十郎だと思った。(團十郎のような気もするのだが・・・)

全体的に、役者絵が少なかったのが、残念といえば残念。(それだけ、他のジャンルも充実していたということだけれど。)
慶応大での渡辺先生の講演によると、高橋誠一郎は、春信好き歌麿嫌い、豊国好き写楽嫌い、広重好き北斎嫌いと、一般的な浮世絵人気とは少しずれた好みであるとか。また、多くの公職・名誉職に祭り上げられる、端から見て座りの良い無色透明性がある一方で、生涯独身で、春画を一人で楽しむという「心の闇」があるところに、大きな魅力があるということであった。今の時代なら、映画のDVDをコレクションする傍ら、AVも観ているというのと一緒かな。(誰のことだ?)
そういえば、渡辺先生の前に講義された坂本達哉教授の「社会思想史家としての高橋誠一郎」の中では、高橋誠一郎には、ストリップの最前列で双眼鏡を持ってかぶりついていたというエピソードも紹介されていた。なかなか面白い人だったんだなあ。
 
三井記念美術館は、日本橋三井タワーから入るのだが、思ったより広いスペースで驚いた。(講演の時の三田キャンパス・旧図書館も、立派な建物だった。)
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