11月歌舞伎座・『忠臣蔵』通し

kenboutei2009-11-22

未明、急に胃もたれがひどくなって目が覚める。寝不足と体調不良のまま、歌舞伎座へ赴いたが、何とか昼夜持ち堪えられた。
今月は忠臣蔵の通し。さよなら公演の演目としては、当然入っていなければならないものではあるが、今の歌舞伎界における「決定版」というには、やや物足りなさは残った。(それにしても、さよなら公演における義太夫狂言の少なさは、どうだろう。「忠臣蔵」はともかく、「千本桜」も「菅原」も通しで出さないで終わってしまいそうで、それが今の歌舞伎人気の現状といってしまえばそれまでだが、何だかとても寂しい。)
大序は、富十郎の師直、勘三郎の判官、梅玉の若狭之助、魁春の顔世、七之助の直義。
中では魁春の顔世が良かった。歌右衛門譲りの品格が漂い、また、そこはかとない色気も滲んできた。ただ、引っ込む時に、飛び跳ねるようにしていたのは、少し形が悪いと思った。
七之助の直義も、雰囲気が出てきて良い。座元の太夫が勤めるに相応しい佇まい。
富十郎勘三郎梅玉とそれぞれ手に入った役で、大序は引き締まった良い一場であった。
刃傷での富十郎勘三郎のやりとりも、二人のイキが合って良かったと思う。ただ、富十郎の足の悪さから、居所に不自由していたのが残念。
四段目。石堂に仁左衛門薬師寺段四郎という面白い配役。勘三郎の判官の切腹は、丁寧で良い。幸四郎の由良之助。
道行は、菊五郎の勘平、時蔵のお軽。(最近、このコンビが多い。)伴内が団蔵で、幕切れに四天の上に乗っかって形となっていたのが新鮮であった。
夜の部最初は、五段目から。梅玉の定九郎は、初役だった前回よりぎこちなさが薄れていた。
六段目と続く菊五郎の勘平は、実に素敵。若々しいのに加え、一つ一つの型の美しさ、どこから見ても勘平である。
自分がはっと思ったのは、六段目で、千崎と不破が来た時に、着物を整え、出迎えようと刀を鏡にして髪に手をやるところ。菊五郎は、足を一歩踏み出した時にその勢いで持っていた刀が鞘から飛び出すという形になるのだが、その一連の流れがとても自然で良かった。
おかやが東蔵。安定感があり、今後持ち役となりそう。(東蔵は六段目はお軽と勘平以外の役を制覇しているのではないか。)
芝翫の一文字屋お才は、案外につまらなかった。左團次の判人。
七段目。幸四郎は平右衛門に回り、仁左衛門が由良之助。(一日通しで見ると、由良之助クラスが昼と夜で異なるのは、戸惑いを否めない。)
幸四郎の平右衛門は、軽妙さに欠け、見ていてつまらない。仁左衛門の由良之助も、遊蕩気分に欠ける。残念。
お軽は福助歌右衛門の声色で顔の動きは福助。とても違和感。
個人的に七段目で一番良かったのは、門之助の力弥であった。
今日はテレビカメラが入っていたせいか、全体的にはみなきっちりと「真面目に」取り組んでいたようであった。